１ はじめに
ある日突然、ご自身のお子様がいじめの加害者とされ、被害者側の保護者から内容証明郵便という厳格な文書が届くことは、非常に大きな衝撃と不安を伴います。
その文書には、お子様の行為に対する損害賠償請求や、今後の接触禁止といった厳しい要求が記載されているかもしれません。
このような事態に直面すると、多くの方は動揺し、感情的な反論や、あるいは恐怖から一方的に要求に応じてしまう危険性があります。
しかし、内容証明郵便が届いた時こそ、感情的な反応を避け、法的な論理に基づいて冷静に対応することが、事態を収束させ、ご自身やご家族を守るために最も重要となります。
相手の主張が法的に妥当なのか、請求されている損害賠償額が適正な範囲内にあるのかを冷静に検証し、その後の訴訟リスクを最小限に抑えるための適切な手段を講じなければなりません。
この記事は、お子様がいじめの加害者とされ、被害者側から法的な責任を追及する内容証明郵便を受け取った方を対象としています。
法律の用語に多少馴染みのある方に向けて、加害者保護者として負う法的責任の範囲を理解し、相手からの文書に対してどのように論理的な回答書を作成すべきかを行政書士の専門分野である文書作成の観点から詳細に解説します。
２ 届いた内容証明への法的対応と責任の境界線
この記事を読み進めることで、あなたは以下の点について具体的に理解し、相手方から届いた内容証明郵便に対して、冷静かつ論理的に対応するための知識を得ることができます。
- お子様のいじめ行為が、法的に不法行為とみなされた場合、保護者としてどこまでの責任を負う可能性があるのか。
- 相手方の請求する損害賠償額やいじめの事実認定が不当である場合に、それを論理的に反論し、交渉の余地を作るための文書作成のポイント。
- 訴訟に至るリスクを回避するために、行政書士が作成する客観的で冷静な回答書が、その後の示談交渉を円滑に進める上で持つ重要な役割。
３ 請求額の妥当性が不明な内容証明を受け取ったWさんの事例
これは、子どもがいじめの加害者とされ、高額な損害賠償請求を受けた架空のWさん（40代・会社員）の事例です。
あくまで事例であることを断っておきます。
Wさんの子どもXくん（中学生）は、クラスメイトのYくんに対するいじめに関与したとされ、Yくんの保護者から内容証明郵便を受け取りました。
その文書には、「Xくんの行為はYくんへの継続的な精神的苦痛を与え、不登校に追い込んだ不法行為である」と断定されており、謝罪の要求とともに、精神的損害に対する慰謝料として500万円を支払うよう請求されていました。
Wさんは、Xくんがいじめに関わっていた事実については認識していましたが、500万円という請求額が法的に妥当な相場なのか、また、いじめのすべての責任をXくん一人が負うものなのかどうか、判断がつきませんでした。
学校に事実確認を求めても、学校は「当事者間の問題」として介入を避けました。
Wさんは、この内容証明に対し、感情的に「うちの子だけが悪いわけではない」と反論すれば、かえって事態が悪化し、訴訟に発展するリスクが高いと考えました。
「法的な相場に基づき、責任の範囲を限定し、冷静に示談交渉へと持ち込むための回答書を作成したい」と考え、行政書士に相談されました。
この事例が示すように、いじめ問題における内容証明への対応は、請求内容の妥当性を冷静に見極め、感情的な対立を避けるための法的な文書作成能力が鍵となります。
４ 加害者保護者として負う責任を理解するための三つの法的概念
Wさんの事例のように、いじめの加害者保護者として法的責任を追及された場合、以下の三つの法的概念を理解し、相手からの不当な主張に対して論理的に反論するための基礎を築くことが必要となります。
- 不法行為責任（ふほうこういせきにん）の追及: いじめ行為は、被害者の人権や利益を侵害する不法行為に該当します。
加害者である子ども（Xくん）は、被害者（Yくん）に対し不法行為責任を負います。
民法第709条には、不法行為に関する条文が定められています。民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文の解説の通り、いじめ行為が不法行為であることは明白ですが、問題はいじめの事実認定の妥当性と、損害賠償額の適正さです。
回答書では、この不法行為の事実の認定について、学校の調査を待つなど、性急な責任の受諾を避ける姿勢を示すことが重要です。 - 監督義務者の責任（民法第714条）: 子どもが未成年者であり、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能（事理弁識能力）がない場合、その子どもを監督する法定の監督義務者（親権者）が損害賠償責任を負います。
しかし、子どもが中学生以上の場合、事理弁識能力があると認められることが多いため、民法第714条に基づく保護者の責任は免除される可能性があります。
その場合、保護者は監督義務の懈怠（けたい）、つまり監督を怠ったという別の不法行為責任を問われることになります。
回答書では、この責任の根拠が民法第714条なのか、監督義務の懈怠なのかを明確にすることで、責任の範囲を限定する主張を行います。 - 示談による紛争解決と文書の重要性: いじめ問題は、訴訟による長期化を避けるために、示談（和解）による解決が最も望ましいとされます。
示談とは、当事者間の話し合いによって紛争を解決することです。
内容証明への回答書は、この示談交渉をスタートさせるための意思表示であり、回答書で「請求額は妥当ではないが、紛争の円満解決のために誠意をもって協議に応じる」という姿勢を示すことが、訴訟リスクを避ける上で極めて重要です。
示談が成立した際には、必ず示談書という法的な文書を作成し、賠償額、支払い方法、再発防止の約束などを明確に定める必要があります。
５ 相手方の主張の妥当性を問う冷静な回答文書の文案
Wさんが被害者保護者から届いた内容証明郵便に対し、冷静かつ論理的に反論し、示談交渉を促すための回答書（内容証明郵便で送付）の文例（骨子）を以下に示します。
これは、請求額の妥当性を問い、責任の範囲を限定しつつ、協議の意思を示す文書です。
【内容証明郵便の記載例（骨子）】
件名 [相手方氏名]殿からの[〇年〇月〇日付]内容証明郵便に対する回答書
- 内容証明の受領と事実の確認 「貴殿からの[〇年〇月〇日付]内容証明郵便を確かに受領いたしました。当職の子どもが貴殿のお子様に対し不適切な行為に関与したことについては、深くお詫び申し上げます。しかしながら、貴文書に記載されているいじめの事実関係および当職の子どもの関与の程度については、学校の調査結果も含め、更なる確認が必要であると考えております。」
- 損害賠償請求額への反論と責任の限定 「貴殿が請求されている[具体的な金額]の損害賠償額については、いじめの態様や関与者が複数である可能性を考慮した場合、当職の子どもの関与の程度を超えた過大な請求であり、法的な相場から見て妥当ではないと判断せざるを得ません。当職が負うべき不法行為責任の範囲を確定させる必要があります。」
- 示談交渉による円満解決の提案 「当職としては、不必要な訴訟による当事者双方の負担増を避けるため、貴殿の心情に配慮しつつ、合理的な賠償額、および具体的な再発防止策を含めた示談による円満解決を強く望んでおります。つきましては、貴殿において請求額の妥当性を再検討された上で、当職との書面による協議にご協力いただきたく存じます。」
- 回答期限の提示 「本回答書に対する貴殿のご意向を、[具体的な期限]までに書面にてご返答ください。期限内に合理的な回答が得られない場合は、やむを得ず当職も訴訟への対応を準備せざるを得ません。」
この文書は、相手に対し、感情論ではなく法的な論点で対抗し、責任の範囲を冷静に限定しつつ、示談による問題解決の意思を明確に伝える役割を果たします。
６ 感情的な反論を避け、事態を収束させるための専門家の客観的な視点
いじめ問題における内容証明への対応は、感情的な言葉を一切排除し、不法行為責任、監督義務の範囲、そして請求額の妥当性という論理的な視点に絞って文書を作成することが重要です。
自己の正当性を主張するあまり、感情的な反論をしてしまうと、相手の怒りを増幅させ、訴訟リスクを高める結果になりかねません。
この重要な回答文書の作成は、手間や費用を惜しむべきものではありません。
その費用は、過大な損害賠償額の支払いを回避し、訴訟という長期にわたる精神的・経済的な負担からご家族を守るための、最も効果的な予防策だからです。
行政書士のような専門家に依頼することで、お客様の状況を深く理解した上で、民法上の不法行為責任の原則に基づき、論理的かつ客観的な文書を作成することができます。
第三者の専門家の客観的な視点は、感情的な対立を緩和し、合理的な示談による問題の早期収束へと導くための最良の手段です。
７ 法的責任の範囲確定と示談交渉の文書作成を行政書士に任せる
いじめ問題における内容証明郵便への対応は、法的責任の範囲を正確に確定させることが極めて重要です。
これは、内容証明郵便、契約書、示談書といった権利義務に関する文書作成を専門とする行政書士の最も得意とする分野です。
当事務所では、お客様から届いた内容証明郵便を詳細に分析し、不法行為責任の範囲と監督義務の法的根拠に基づいた、冷静かつ論理的な回答文書の作成を一貫してサポートいたします。
過大な請求に対する反論文書を作成し、その後の示談交渉を有利に進めるための準備を、行政書士に安心してお任せください。
法的責任を追及され、不安を感じている場合は、決して感情的な対応を取らず、冷静な文書作成のプロにご相談ください。
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