はじめに
この度は、マッチングアプリを通じて約束を取り交わしたにもかかわらず、一方的なドタキャンという心ない行為によって、精神的な苦痛や経済的な損害を被られた皆様へ、行政書士として法的な観点から解決の糸口をご提供したく、筆を執りました。
多くの方が、単なる「約束の破棄」として諦めてしまいがちですが、状況によっては法的な責任を追及できる可能性があり、その手段として内容証明郵便が非常に有効に機能します。
法律の用語に多少の理解がある読者の皆様へ、ドタキャンによって生じたトラブルをどのように法的に整理し、損害の回復を目指すべきか、丁寧にご説明させていただきます。
この記事をお読みいただくとわかること
本記事をお読みいただくことで、マッチングアプリでのドタキャンという行為が、私たちの社会生活を律する法律においてどのように位置づけられるのか、そしてその行為に基づいて具体的にどのような損害賠償請求が可能になるのか、その法的根拠を深くご理解いただけます。
また、ご自身の主張を相手方に正式に通知し、交渉を有利に進めるための強力な手段である内容証明郵便をどのように活用すべきか、その具体的なポイントも把握していただけます。
さらには、このようなプライベートなトラブルを感情論に終始させることなく、客観的かつ冷静に解決へと導くために、専門家である行政書士が果たす役割についても明確にご理解いただけるでしょう。
ドタキャンによって多額の損失を被ったケーススタディ
これはあくまでも、皆様にドタキャンの法的問題を具体的にイメージしていただくための架空の事例です。
Aさんは、都心に住む会社経営者で、週末に地方都市に住むBさんとの初デートを心待ちにしていました。
Aさんは、Bさんの希望を聞き入れ、二人の出会いを記念するものとして、都内の高級老舗旅館の温泉付き特別室を予約しました。
この特別室は、週末の予約が大変難しく、キャンセルポリシーが厳格で、前日キャンセルでは宿泊料金の全額がキャンセル料として発生するという条件でした。
また、Aさんは、Bさんとの待ち合わせ場所である地方都市まで新幹線と特急列車を乗り継いで向かう予定で、往復の特急券と指定席券を予約購入済みでした。
さらに、Bさんへの手土産として、高価なブランドの菓子折りも事前に用意していました。
待ち合わせ当日の朝、Aさんが新幹線に乗る直前、Bさんから「急に体調が悪くなったので、今回の約束はなかったことにしてください」という、非常に短く一方的なメッセージが届きました。
そのメッセージには謝罪の言葉はありましたが、代替日の提案や具体的な事情の説明は一切ありませんでした。
Aさんは、既に旅館へのキャンセル料が発生し、往復の交通費もほぼ無駄になり、さらにBさんのためを思って用意した手土産も渡すことができず、精神的な落胆と経済的な損失の合計が数十万円に上りました。
Aさんは、Bさんの行為が単なるマナー違反にとどまらず、自らの財産を不当に奪ったものとして、法的な責任を追及できないかと考えています。
この事例のように、ドタキャンによって具体的な経済的損失が生じた場合、当事者間の連絡を絶たれた状態で、どのようにして相手に責任を認めさせ、損害を賠償させることができるかが大きな問題となります。
ドタキャン行為を法的にどう捉えるのか 民法に定められた損害賠償の考え方
上記のようなドタキャン行為は、法的には債務不履行または不法行為といった形で捉えられる可能性があります。
まず、デートの約束自体は一般的に法的な契約とはみなされませんが、相手の行動を信頼して費用を支出したという信頼関係が構築されていたと考えることができます。
一つ目の考え方として、デートの約束という合意に基づき、相手が約束の履行を期待させる行動を取ったにもかかわらず、正当な理由なく一方的にそれを破棄したことは、一種の契約類似の関係における義務違反、すなわち債務不履行に準じて評価できる場合があります。
ここで言う「債務」とは、金銭の支払いのような明確な義務に限らず、約束を履行するという誠実な行動義務も含みます。
二つ目の考え方は、相手のドタキャン行為が、故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害する不法行為に該当するというものです。
民法第七百九条は、この不法行為による損害賠償責任について、次のように定めています。
民法第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文の解説ですが、マッチングアプリで知り合った二人が、デートの約束をし、一方がその約束を信頼して旅館の予約や交通費の支出といった行動に出た場合、他方は、その予約や支出が無駄にならないよう、約束を守るか、やむを得ない事情が生じた場合には直ちに誠意をもって連絡するという信義則上の義務を負っていたと解釈できます。
正当な理由もなく、直前のメッセージ一本で約束を破棄することは、この信義則上の義務に反する行為であり、相手の経済的な利益や、デートの実現という法的に保護されるべき期待権を侵害した、すなわち不法行為に該当する可能性があるのです。
この文脈において、特に重要な法的専門用語を三つ解説いたします。
まず信義則ですが、これは信義誠実の原則とも呼ばれ、民法の基本的な理念の一つです。
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないという原則を指します。
マッチングアプリでのドタキャンにおいても、連絡を取り合って約束をした当事者間には、互いに信頼し、誠実に約束を履行しようとする義務が暗黙の内に存在します。
この信義則に反する行為は、法的な責任を問われる根拠となり得ます。
次に信頼利益という用語です。
これは、契約が有効に成立すると信じたために支出した費用のことです。
先の事例で言えば、旅館のキャンセル料や往復の交通費、手土産の費用などがこれにあたります。
ドタキャンによって契約や約束が破棄された結果、当事者が被る損害は、この信頼利益の侵害として捉えられ、その賠償を求めることができます。
三つ目に内容証明郵便です。
これは法的な用語というよりも、法的手続き上の重要な手段を指しますが、行政書士の専門分野として不可欠な知識です。
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰へ差し出したのかを郵便局が公的に証明してくれる郵便制度のことです。
単なる普通郵便とは異なり、相手方にあなたの主張が届いたという事実と、その内容を証拠として残すことができるため、後の裁判や法的な交渉において極めて重要な役割を果たします。
特に、感情的になりがちなトラブルで、あなたの真剣な意思と法的な準備を相手に伝えるための最初の正式な一歩となります。
これらの法的根拠に基づき、ドタキャンによって生じた損害、すなわち旅館のキャンセル料や交通費といった金銭的な損害、さらには精神的な苦痛に対する慰謝料までも、相手に請求することが可能となるのです。
相手に意思を明確に伝える内容証明郵便の文例
ドタキャンによる損害賠償請求を行う場合、口頭や電子メールではなく、正式な文書によって相手方に通知することが重要です。
この通知を内容証明郵便で行うことで、相手に法的措置も辞さないという強い決意を伝え、事態を早期に解決へと導くための心理的な圧力をかけることができます。
以下は、先に挙げた事例のAさんがBさんに対して送付する内容証明郵便の文例として、請求の趣旨を明確にしたものです。
実際の作成においては、事案ごとの具体的な事実関係や損害額を詳細に記載する必要があります。
通知書
拝啓
当職は、貴殿に対し、下記の事実に基づき、損害賠償金として金〇〇円の支払い並びに本書到達の日の翌日から支払済みに至るまでの期間につき年三パーセントの割合による遅延損害金の支払いを請求いたします。
記
一、貴殿と通知人とは、マッチングアプリを通じて知り合い、令和七年十一月三十日に〇〇旅館において宿泊を伴う面会を行う旨の合意が成立しておりました。
二、通知人は、上記合意に基づき、宿泊先として〇〇旅館の特別室(一泊〇〇円)を予約し、また、貴殿との待ち合わせ場所までの往復の交通費として新幹線特急券及び指定席券(合計〇〇円)を事前に購入いたしました。
三、通知人は、上記予約及び購入の事実を貴殿にもお伝えしておりましたが、貴殿は令和七年十一月三十日当日、通知人が新幹線に乗車する直前になって、一方的に面会の約束を取り消す旨の電子メッセージを送信されました。
四、貴殿の一方的な約束の破棄により、通知人は〇〇旅館のキャンセルポリシーに基づき宿泊料金全額をキャンセル料として支払わざるを得なくなり、また、購入済みの交通費もそのほとんどが無駄になりました。これらの損害は、合計で金〇〇円に上ります。
五、貴殿の行為は、上記民法第七百九条に定める不法行為に該当するものと判断せざるを得ません。貴殿は、通知人に対し、上記損害を賠償する責任がございます。
つきましては、本書到達の日から起算して七日以内に、上記損害賠償金として金〇〇円を、下記指定口座へお振込みいただくよう強く求めます。
万一、上記期間内にお支払いが確認できない場合は、誠に遺憾ながら、法的手段に訴えることを視野に入れ、訴訟提起等、必要な措置を講じることになりますので、予めご承知おきください。その際には、別途、訴訟費用、弁護士費用等の負担も貴殿に求めることになります。
敬具
令和七年十二月〇日
被通知人 〇〇 〇〇殿
通知人 〇〇 〇〇 (連絡先 〇〇)
この文例のように、内容証明郵便では、事実の経緯、請求の根拠となる法律(民法第七百九条等)、具体的な損害額、そして期限を設けた支払い要求を明確に記載します。
これにより、相手に対し、曖昧な言い逃れを許さないという強いメッセージを伝えることができます。
感情的になりがちなトラブル解決には客観的な専門家の助言が不可欠です
マッチングアプリでのドタキャンといったトラブルは、個人の感情が強く関わるため、当事者同士での話し合いは往々にして感情論に陥り、建設的な解決に至らないことが少なくありません。
また、一度関係が悪化すると、適切な法的根拠に基づいた主張を冷静に行うことが難しくなります。
このような時こそ、書類作成と法的な手続きに関する専門家である行政書士の助言が不可欠になります。
行政書士は、当事者の一方ではなく、客観的な第三者の視点から、トラブルの状況を冷静に分析し、法的に有効な主張を組み立てることができます。
内容証明郵便の作成においては、感情的な表現を排し、法的な構成を整えることで、その文書の説得力を飛躍的に高めることが可能です。
費用や手間を惜しみ、ご自身で不慣れな手続きを進めた結果、かえって事態を複雑化させてしまうケースも散見されます。
トラブルの初期段階で専門家にご相談いただくことは、迅速かつ円満な解決への最も確実な近道となります。
ぜひ、手間や費用を惜しまず、専門家に行政書士に助言を求めることで、ご自身の権利をしっかりと守り、新たな一歩を踏み出してください。
紛争を未然に防ぎ、迅速な解決を目指すための行政書士へのご相談窓口
当事務所は、内容証明郵便の作成や、後々の紛争を未然に防ぐための合意書の作成を専門としております。
マッチングアプリでのドタキャン被害をはじめとする、様々な私人間でのトラブルについて、法的な観点から最適な解決策をご提案いたします。
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