はじめに
初七日法要は、故人が亡くなられてから七日目に行われる、仏教において非常に大切な儀式です。
故人の魂が冥土の旅を始め、七日ごとにその道筋が定まっていくとされる中、遺族が集まり故人の冥福を祈ることで、故人を無事に次の世界へと送るための助けとなります。
この法要は、遺族にとって故人の死を改めて受け止め、心の整理をつけるための重要な時間でもあります。
多くの場合、葬儀の日に繰り上げて行われますが、いずれにしても初七日法要をもって、遺族の皆様はひとまず儀礼的な区切りを迎えることになります。
しかし、この初七日法要を終えた直後から、遺族は「儀式」の世界から「法的な現実」の世界へと目を向けなければなりません。
それは、故人の残した財産、権利、そして義務を承継する相続という重大な手続きです。
故人の死亡という事実は、法的に見れば即座に相続の開始を意味します。
本記事では、初七日法要の意義を踏まえつつ、この法要を終えた直後から、四十九日法要を迎えるまでの間に、遺族が着手すべき相続に関する準備、特に財産調査や遺言書の有無の確認といった法的基盤の確立について、詳しく解説いたします。
この記事でわかること
本記事を通じて、初七日法要の基本的な流れや意味を理解するとともに、その法要を終えた後に遺族が直面する相続の早期準備の重要性が明確になります。
特に、故人の遺産に関する争いを未然に防ぐためには、四十九日法要を迎えるまでに、故人の相続財産と債務の全容を正確に把握するための財産調査を開始することがいかに重要であるかがわかります。
また、遺言書が存在するかどうかの確認方法、特に法務局の保管制度や公証役場で作成された公正証書の遺言書の調査方法についても知識を得ることができます。
これらの情報は、後の遺産分割協議を円滑に進めるための土台となります。
初七日という心の区切りを、法的な手続きのスタートラインと捉え、残された家族が円満な承継を実現するための具体的な行動計画を立てられるよう、知識を提供いたします。
事例 遺言書の不明確さが招いた手続きの遅延
これはあくまで架空の事例です。
父Aが亡くなり、遺族は母B、長男C、長女Dの三人です。
葬儀と同時に初七日法要を終え、遺族は一息つきました。
しかし、長男Cが「父は生前、自宅は母に、預金は私たち子どもに分けてほしいと言っていた」と発言したのに対し、長女Dは「そんな話は聞いたことがない。父は遺言書を残しているはずだ」と主張し、意見が対立しました。
遺言書がどこにあるのか、そもそも作成されているのかが不明確なまま、遺族は曖昧な気持ちで日々を過ごすことになりました。
その間にも、銀行からの郵便物が届き始めましたが、口座が凍結されているため、詳細は確認できません。
初七日から数週間が経過し、母Bが初めて故人の預貯金や証券会社の契約書を探し始めましたが、その資料は自宅のあちこちに分散しており、全体像を把握するまでにさらに時間を要しました。
結局、四十九日法要を終えても、故人の財産が確定せず、遺言書の有無も不明なままであったため、遺産分割協議に着手することもできず、遺族は手続きの遅延による不安と、親子間の信頼関係の悪化という問題を抱えることになってしまいました。
初七日という節目を終えた直後の準備の遅れが、後の大きな混乱を招いた事例です。
法的解説、専門用語の解説
初七日と相続開始の連動
初七日法要が行われる七日目、あるいは葬儀の日という儀礼的な区切りは、法律上の相続開始の時期とは異なります。
民法第八百八十二条の規定に基づき、相続は故人の死亡という事実をもって直ちに開始します。
つまり、初七日法要を終えた時点では、すでに故人の全ての権利と義務、すなわち相続財産と債務は、相続人全員に法律上承継されている状態にあるのです。
したがって、初七日法要を終え、遺族が心の整理をつけ始めたら、間髪入れずに相続財産の調査を開始することが、後の遺産分割を円滑に進めるための絶対的な前提となります。
故人が残した預貯金、不動産、株式などのプラスの財産だけでなく、借入金や未払いの税金などのマイナスの財産も含めて、その全容を正確に把握しなければ、遺産分割の話し合いを始めることすらできませんし、また、マイナス財産が多い場合には、相続放棄という重要な選択肢を検討する期限(相続開始を知った時から三ヶ月)が迫っている可能性もあります。
相続財産調査の法的意義
相続財産調査は、故人の遺産を特定し、その後の遺産分割協議の基礎を築くための法的にも非常に重要な作業です。
特に重要なのは、故人の銀行口座がどこにあったか、どのような不動産を所有していたかといった情報を、公的な証明書(金融機関の残高証明書、市区町村役場での名寄帳など)に基づいて客観的かつ網羅的に把握することです。
この調査が不十分であると、後から隠れた財産や債務が発見された場合に、すでに成立した遺産分割協議をやり直さなければならないという事態になりかねません。
これは、再度相続人全員が集まり、複雑な手続きを経る必要が生じるため、遺族の負担を著しく増大させることになります。
したがって、初七日を終えた直後、親族間で感情的な対立が深まる前に、行政書士などの専門家を活用して、この財産調査を迅速かつ正確に進めておくことが、将来的な紛争予防のための賢明な投資と言えます。
遺言書の有無の確認と公正証書
相続財産調査と並行して行うべき最重要事項が、遺言書の有無の確認です。
故人の遺言書があれば、原則としてその内容に従って遺産分割を進めることになるため、協議の必要性が大きく変わってきます。
遺言書の確認は、自宅内を探すことに加え、公的な場所での調査も重要です。
特に、遺言書が公正証書として作成されている場合、公証役場にその原本が厳重に保管されています。
遺言公正証書は、公証人という公務員が作成するため、形式上の不備がなく、偽造・変造の恐れもないことから、高い証拠力を持ちます。
この公正証書は、先の事例で懸念されたような「本当に故人の意思か」という争いを未然に防ぎ、相続手続きを非常に円滑に進めることを可能にします。
遺言書の作成を検討する段階で、行政書士がサポートする遺言公正証書の作成を選択することは、残された家族に最も確実な安心をもたらす方法なのです。
まとめ
初七日法要は故人を弔う大切な儀式ですが、その儀式を終えた直後から、遺族は相続という法的な現実に直面します。
この時期に最も重要なのは、後の四十九日法要までの間に、相続財産の全容を把握する調査と、遺言書の有無の確認を迅速かつ正確に進めることです。
この初期の準備が、後の遺産分割協議の成否、ひいては家族間の関係性に決定的な影響を与えます。
遺言書が不明確な場合や、財産調査が不十分な場合、後の手続きは停滞し、遺族は不必要な負担や紛争に巻き込まれるリスクを負うことになります。
行政書士は、戸籍の収集、複雑な相続財産調査、そして後の争いを防ぐための遺産分割協議書の作成や、最も確実な遺言である遺言公正証書の作成サポートを通じて、依頼者様の権利義務に関する書類作成を専門としています。
初七日という節目を越えて、残されたご家族の平穏な未来を築くための法的手続きについて、ご不明な点がございましたら、いつでもご相談ください。
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