1 はじめに
インターネットやSNSの普及により、誰もが情報の発信者となれる現代において、「名誉毀損」に関するトラブルは増加の一途を辿っています。
匿名での無責任な投稿、根拠のない誹謗中傷などによって、一度失われた個人の名誉や社会的信用を取り戻すことは容易ではありません。
しかし、泣き寝入りする必要はありません。法的な手続きを踏むことで、被害を回復させ、相手方に対してその責任を追及することが可能です。
その第一歩として、内容証明郵便という手段が非常に有効です。内容証明郵便は、単なる手紙ではなく、「いつ」「誰が」「誰に」「どのような内容の文書」を送付したのかを郵便局が公的に証明するものであり、法的な交渉や裁判を見据えた際に強力な証拠となり得る文書です。
この記事では、名誉毀損の被害に遭った方が、内容証明郵便をどのように活用し、ご自身の権利を守るべきかを行政書士の視点から詳しく解説します。
2 この記事でわかること
この記事を最後までお読みいただくことで、名誉毀損にあたる行為の法的側面と、その相手方に対して損害賠償請求を行うために内容証明郵便がどのような役割を果たすのか、そして実際に送付する際にどのような点に注意し、どのような文言を使用すれば最も効果的なのか、その具体的な「例文」を含めて理解することができます。
また、自分で内容証明を作成する時間がない、あるいは専門的な表現に不安があると感じた場合に、行政書士がどのようにサポートできるのかについても知ることができます。
3 インターネット上の書き込みによる名誉毀損のケーススタディ
これはあくまで架空の事例であり、実際の事件とは一切関係ありません。
東京都内に本社を構える中堅のIT企業、株式会社S社で働く営業部長のAさんは、ある日、匿名掲示板に自分に関する悪質な書き込みがあることを知りました。
書き込みの内容は「A部長は顧客の個人情報を不正に横流ししている」「社内の機密費を私的に流用し、遊興費に充てている」という、すべて事実に反するものでした。書き込みは連日続き、その結果、取引先からの信用にひびが入り始め、社内でもAさんに対する不当な噂が広がり、精神的な苦痛を感じるようになりました。
Aさんはすぐに警察に相談しましたが、「民事不介入」とのことで、書き込みの削除や相手の特定には動いてもらえませんでした。
そこでAさんは、この書き込みを放置すれば自身の社会的地位と精神的健康が取り返しのつかないほどに損なわれると考え、まずは書き込みの主に対して法的な責任を追及する意思を明確に示すことを決意しました。
しかし、相手の氏名や住所が不明であったため、まずは掲示板の運営会社に対して発信者情報開示請求を行うための準備が必要となり、その一環として、相手が特定できた段階ですぐに送付できるよう、内容証明郵便の準備に取り掛かることになります。
Aさんの目的は、書き込みの削除、謝罪、そして精神的苦痛に対する損害賠償請求です。
4 名誉毀損で相手に責任を求めるための法的な知識
上記のような事例において、相手方に対し損害の賠償を求めるためには、私法上の根拠を明確にする必要があります。ここでは、内容証明郵便を作成する上で不可欠となる重要な法概念を三つ解説します。
まず、一つ目の重要な概念は「名誉毀損」です。法律上、名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為を指します。
ここでいう「事実を摘示」とは、それが真実であるかどうかにかかわらず、具体的な事実を述べたり示したりすることを意味します。
また、「公然と」とは、不特定または多数の人が認識できる状況で、たとえば、インターネット上の掲示板やSNSへの投稿などがこれにあたります。
そして、「名誉を毀損」とは、人の社会的評価を低下させることを指します。
たとえその内容が真実であったとしても、公共の利害に関係のない私的な事柄を暴露するなど、一定の例外を除いては名誉毀損が成立し得るため注意が必要です。
次に、「不法行為」という概念があります。これは民法第七百九条に定められているもので、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という原則です。
名誉毀損行為は、まさにこの「不法行為」の一つに該当します。
この不法行為が成立することで、被害者は加害者に対して、その行為によって生じた損害の賠償を請求する法的な権利を得ることになります。
内容証明郵便を送ることは、この不法行為に基づき、損害賠償請求権を行使するという、明確な意思表示を相手方に対して行うことにほかなりません。
最後に、「慰謝料」についてです。不法行為によって生じた損害は、財産的な損害、例えば、風評被害による売り上げの減少や、治療費などと、精神的な損害に分けられます。この精神的な損害を金銭的に評価し、賠償させるものが慰謝料です。
名誉毀損の被害は、多くの場合、深い精神的苦痛を伴います。内容証明郵便には、この精神的苦痛に対する賠償として、具体的な金額をもって慰謝料の支払いを請求する旨を明記することが重要です。
請求額の設定には、被害の程度、加害行為の悪質性、社会的影響などを総合的に考慮する必要があります。
5 名誉毀損に対する内容証明郵便の具体的な例文
内容証明郵便の作成において最も重要なのは、相手方に対して、名誉毀損の事実、それが不法行為に該当すること、そしてそれに対する損害賠償請求の意思を明確かつ断定的に伝えることです。以下に、一般的な名誉毀損の事案に対する内容証明郵便の文例を示します。これは行政書士が作成する際の叩き台となるものであり、個別の事案に合わせて適宜修正が必要です。
件名:名誉毀損行為に対する抗議及び損害賠償請求通知書
当職は、貴殿に対し、以下のとおり通知します。
記
一 貴殿は、令和〇年〇月〇日頃から、〇〇(掲示板名やSNSサービス名)上において、当方(通知人)に関する事実に反する内容を投稿し続けています。投稿された内容は、「(具体的な投稿内容を簡潔に記載)」というものであり、当方の社会的信用を著しく低下させるものです。
二 上記貴殿の行為は、刑法上の名誉毀損罪に該当する可能性があり、また、民法第七百九条の不法行為を構成することは明白です。この行為により、当方は精神的苦痛を被り、また社会的な信用の失墜という重大な損害を被っています。
三 よって当方は、貴殿に対し、直ちに上記投稿をすべて削除することを求めるとともに、上記の不法行為に基づき、当方が被った精神的損害に対する慰謝料として金〇〇〇万円を、本通知書到達の日から七日以内に、下記銀行口座へ振り込む方法により支払うことを請求いたします。
四 万が一、上記期限までに投稿の削除及び慰謝料の支払いがなされない場合は、当方としては、やむを得ず法的措置、具体的には損害賠償請求訴訟の提起等に移行せざるを得ません。その際には、訴訟費用、弁護士費用等のすべてを貴殿に請求することになることを申し添えます。
以上
6 「言った」「言わない」をなくし、早期解決へ向かうための専門家の活用
内容証明郵便は、その作成から送付、その後の交渉に至るまで、専門的な知識と細やかな注意を要します。
まず、内容証明の最大の効用は、通知内容が証拠として残るため、「言った」「言わない」という水掛け論を避けることができる点にあります。
しかし、その効力を最大限に発揮するためには、記載する内容が法的に適切である必要があります。
名誉毀損の成立要件を満たしているか、不法行為の根拠が明確か、請求金額が妥当な範囲かなど、一つ一つの文言が裁判を見据えたものになっているかどうかが重要です。
不適切な内容や曖昧な表現では、かえって相手方に付け入る隙を与えてしまう可能性すらあります。
行政書士は、法律上の要件を踏まえ、お客様の状況を正確に反映した、論理的かつ説得力のある内容証明郵便を作成する国家資格を有する専門家です。
私たち行政書士は、個別の事案に応じて、事実関係の整理から始まり、記載すべき法的な根拠、請求する内容の明確化までをサポートいたします。
また、相手方との直接的なやり取りは精神的な負担を伴うことが多いため、行政書士が作成した文書を送付することで、お客様の精神的負担を軽減し、交渉のテーブルに着く前の段階で事態を有利に進めることが可能です。
名誉毀損という深刻な被害に遭われた際、ご自身の権利をしっかりと守り、早期に平穏な日常を取り戻すためにも、内容証明郵便の作成はぜひ行政書士にご依頼ください。
専門的な知識と経験に基づいた文書作成により、あなたの主張を法的に裏付けられた形で相手方に伝え、迅速な問題解決へと導きます。
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