死亡届提出で全てが始まる 届出後の相続手続きと遺産分割協議書の重要性

はじめに

愛する人が亡くなった際、遺族は深い悲しみの中で、様々な手続きを進めなければなりません。
その中でも、最初にして最も重要な手続きとなるのが死亡届の提出です。
この届出は、故人の死亡を戸籍に記載し、法律上正式に死亡したという事実を確定させるための公的な行為であり、その後の全ての行政手続き、法的手続きの起点となります。
この届出が受理されることによって、故人の住民票が抹消され、年金や健康保険などの各種社会保障制度の資格が喪失し、そして何より相続が開始されることになります。

死亡届の提出には、医師による死亡診断書(または死体検案書)が必要であり、原則として死亡の事実を知った日から七日以内という提出期限が定められています。
本記事では、この重要な死亡届の具体的な提出方法や、葬儀社へ依頼する際の流れといった実務的な側面だけでなく、提出が完了した後、遺族が直面する相続という重大な課題に焦点を当てて解説します。
死亡届の提出は単なる手続きの完了ではなく、故人の残した財産と向き合い、家族の新たな生活設計を始めるための「スタートライン」であることをご理解ください。

この記事でわかること

本記事をお読みいただくことで、死亡届の提出に関する基本的な流れや必要事項を正確に把握できるだけでなく、その後の相続手続きにおける重要な法的なステップについて、その全体像を理解することができます。
具体的には、死亡届が受理されることによる公的な効力と、それによって直ちに必要となる銀行口座の凍結などの財産に関する手続き、そして最も重要である遺産分割協議と遺産分割協議書の作成の意義について、その重要性が明確になります。

また、遺産分割協議を円滑に進めるための準備や、後々の親族間の争いを防ぐための公正証書の活用といった、法律文書作成の専門家である行政書士の業務領域に関わる具体的な知識を得ることができます。
死亡届の提出は、故人の意思を尊重し、残された家族が穏やかに生活を続けるための法的基盤を築く第一歩であることを理解し、その後の手続きに万全の備えができるようになることを目指します。

事例 死亡届提出後の手続き停滞

これはあくまで架空の事例です。

父Aが亡くなり、遺族は妻B、長男C、長女Dの三人です。
葬儀社に全てを依頼し、滞りなく死亡届の提出も完了しました。
提出後、妻Bが生活費を引き出そうと故人A名義の銀行口座を訪れたところ、すでに口座は凍結されており、現金の引き出しができなくなっていました。
死亡届が受理されると、その情報が金融機関にも共有され、相続財産の保全のために口座が自動的に凍結されるのが一般的です。

この時点で、長男Cと長女Dは、父の遺言書が見つからないため、すぐに遺産分割協議を始める必要性を認識しました。
しかし、財産の内容が明確でなかったため、まず故人名義の全ての銀行口座や不動産を調べる財産調査から着手する必要がありました。
さらに、長女Dは遠方に住んでいるため、何度も集まって協議を行うことが難しく、話し合いの場を設定するだけでも時間がかかりました。
結果、口座凍結から数ヶ月が経過しても遺産分割協議がまとまらず、遺産分割協議書を作成できない状態が続きました。

協議書がないため、銀行口座の解約や不動産の名義変更(相続登記)といった一つ一つの手続きが進まず、遺族は日常生活にも影響が出るほどの経済的、精神的な負担を強いられてしまいました。
死亡届の提出という「始まり」の後に、いかに迅速に次の手続きに進むことが重要であるかがわかる事例です。

法的解説、専門用語の解説

死亡届の法的意義と相続の開始

死亡届は、戸籍法という法律に基づいて行われる届け出です。
この届出が受理され、戸籍に死亡の事実が記載されることによって、故人は法律上、人格を失い、権利能力が消滅します。
この権利能力の消滅と同時に、法律上重要な効果が発生します。それが相続の開始です。

民法第八百八十二条には、相続開始の時期について次の通り規定されています。

相続は、死亡によって開始する。

この条文の通り、相続は死亡という事実をもって自動的に開始します。

つまり、死亡届が受理されたその瞬間から、故人Aの持っていた全ての権利と義務(財産や負債など)は、相続人である妻B、長男C、長女Dに法律上承継されることになります。
死亡届の提出は、単に故人の情報を公的に登録する手続きではなく、遺族が今後、故人の残した権利義務をどう処理していくかという、重大な法律上の課題に向き合うための第一歩なのです。

遺産分割協議書作成の重要性と公正証書

相続が開始すると、故人の財産は相続人全員の共有状態となります。
事例で見たように、共有状態にある財産(銀行預金など)は、相続人全員の合意がない限り、勝手に処分したり、引き出したりすることができません。
この共有状態を解消し、誰がどの財産を最終的に取得するかを話し合って決めるのが遺産分割協議です。

そして、この話し合いの結果を、後々の紛争を避けるため、また、各種手続きに必要な書類として作成するのが遺産分割協議書です。
この協議書には、相続人全員の署名と実印の押印が必要であり、これがなければ、金融機関での名義変更や、法務局での不動産の相続登記といった主要な手続きを一切進めることができません。
したがって、死亡届提出後、速やかに財産調査を行い、この遺産分割協議書の作成に取り掛かることが、遺族にとって最も優先度の高い事項となります。

さらに、この遺産分割協議書の内容を、より確実で強力なものにするため、公正証書として作成するという選択肢があります。
公正証書は、公証人が公証役場で作成する公文書であり、単なる私的な文書である遺産分割協議書と比較して、証拠力が極めて高いという特性があります。
特に、遺産分割に伴い、相続人の一人が他の相続人に対して金銭を支払う代償分割などの取り決めがある場合、その公正証書に強制執行認諾文言を盛り込んでおくことで、万が一、支払いが滞った際に、裁判を経ることなく直ちに強制執行手続きに移ることができるという、強力な法的担保を得ることができます。
この公正証書を作成することで、家族間の約束の実現性を高め、将来的な紛争の発生を未然に防ぐことができるのです。

まとめ

死亡届の提出は、故人の死を公的に確定させ、相続という次の重大な法律上の局面への扉を開く手続きです。
提出を完了させた後、遺族は故人の財産が凍結され、遺言がない限り、遺産分割協議書が作成されるまで、その財産を自由に利用することができなくなるという現実に直面します。

遺族が混乱と手続きの停滞を避けるためには、死亡届の提出を終えた直後から、相続財産の調査と、遺産分割協議書の作成に迅速に取り掛かることが極めて重要です。
この協議書の作成は、相続人全員の合意形成と、法律的な要件を満たした正確な文書化が必要であり、後の紛争を防ぐための最重要課題と言えます。

行政書士は、この遺産分割協議書の原案作成や、複雑な戸籍の収集、そして合意内容を強固にする公正証書の作成サポートなど、権利義務に関する書類作成を通じて、遺族の皆様が抱える法的・実務的な負担を軽減する専門家です。
死亡届提出後の手続きの波に飲み込まれることなく、故人の残した財産を円満に次世代へ承継させるため、不安な点や疑問点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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