はじめに
民泊や簡易宿所の運営では、日々発生する廃棄物の処理が避けられません。
多くの場合、清掃やゴミ処理業務を外部の代行業者に委託していることでしょう。
しかし、「産業廃棄物処理の委託契約を誰が結ぶのか?」という点で、意図せず法律違反をしてしまっているケースが少なくありません。
本記事では、廃棄物処理法(廃掃法)の基本ルールと、民泊業界における誤りやすい契約パターンのチェック方法、さらには違法な契約を見直すための実務ポイントを解説します。
排出事業者が契約すべきという原則
廃掃法(正式名称:廃棄物の処理及び清掃に関する法律)では、産業廃棄物の処理は「排出事業者」が責任を持って行うことが定められています(第22条、第25条)。
✅ 排出事業者とは?
廃棄物を実際に発生させている者=運営主体として現場を管理している事業者のことを指します。
たとえ実務を代行会社が担っていても、運営責任者がオーナー法人であるなら、契約主体もそのオーナー法人でなければならないのです。
代行業者が契約してはいけない理由
「実務はうちが全部やっているので、ゴミ処理契約も当社名義でやっておきました」
このような運用が実際に多く見られますが、これは排出事業者の名義借り行為に該当し、以下のようなリスクが生じます:
・廃掃法違反(第25条1項1号・6号)
・委託契約の無効(再委託扱い)
・排出事業者責任の不履行による行政指導
・最悪の場合、6月以下の懲役または100万円以下の罰金
事例①:契約主体の誤りを行政に指摘され是正命令
都内の民泊を複数運営していたA社は、運営実態はA社にあるにもかかわらず、ゴミ処理契約は代行会社B社が処理業者と直接締結していました。
ある日、保健所の立入調査で「排出事業者と契約者が一致していない」との指摘を受け、是正命令を発動。
A社は産廃契約を再締結し、過去の処理経緯をすべて報告することとなりました。
事例②:契約が無効とされ、更新許可に影響が
地方都市で民泊物件を展開するC社は、実務を任せていた代行業者D社が独自に産廃契約を締結。
しかし、更新時に行政側から「再委託に当たる契約は無効」と指摘を受け、廃棄物処理の責任体制に疑問がつきました。
結果的に許可の更新に時間がかかり、営業に支障が出た事例です。
契約を見直すべき3つのポイント
① 契約名義が実態と一致しているか?
運営者が排出事業者ですか?
契約書に記載された会社名は、現場の管理責任者と一致していますか?
② 委託契約に「再委託禁止条項」があるか?
多くの産廃業者との契約では、再委託(下請化)を禁じる条項が存在します。
この場合、名義借り契約が直ちに無効扱いとなる可能性があります。
③ 清掃・廃棄物の責任区分が曖昧でないか?
ゴミの収集、運搬、処分の範囲は契約上明確ですか?
契約書に記載された「排出事業者名」と、自治体への届出名義が一致していますか?
事例③:善意の契約代行が処分業者を困らせる
小規模な管理会社E社は、「オーナーの代わりに処理契約しておきます」と処分業者と契約を締結。
ところが、処分業者側が行政審査で名義の違和感を指摘され、説明を求められる事態に。
結果としてE社は契約をオーナー法人へ変更し、再度説明書を提出。善意の対応がトラブルに発展した事例です。
まとめ|“名義”の見直しは、トラブル予防の第一歩
産廃処理契約は、「廃棄物を出す主体=排出事業者」が行うのが原則です。
民泊や代行業務では、つい実務をしている側が契約しがちですが、それは法律違反になる可能性もあります。
契約を結んだままにせず、運営実態と一致しているか、再委託になっていないかを定期的に確認することが大切です。