はじめに
「民法651条によって委任契約はいつでも解除できる。だから報酬は払わなくていい」。
そんな認識のまま契約を解除してしまい、報酬の未払いトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
たしかに、契約解除自体は自由ですが、「これまで行われた業務に対する報酬の支払い義務」がなくなるわけではありません。
本記事では、準委任契約における契約解除のルールと報酬の扱いについて、民法上の原則、実務上の処理方法、トラブル事例を交えてわかりやすく解説します。
準委任契約とは?業務委託の代表形態
準委任契約は、民法643条以降に定められており、「法律行為でない事務の処理」を依頼する契約形態です。
典型的には以下のような業務が対象となります。
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各種調査や資料収集
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ITシステム開発・設計業務
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コンサルティングやアドバイザー契約
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原稿執筆や企画提案
契約の性質としては、「成果に対する対価」ではなく「作業や労務の提供に対する対価」が支払われるのが特徴です。
そのため「まだ成果が出ていないから未払いでも構わない」という考え方は、法律的に大きな誤解です。
民法上の解除規定と報酬支払の原則
民法651条:解除の自由
委任契約は、当事者のいずれからでも、いつでも解除することができます。
つまり、発注者の都合による解除も自由です。
ただし…
民法648条3項2号:履行済業務の報酬請求権
すでに履行した部分については、受任者は報酬を請求することができる。
この条文が示すように、解除後であっても、それまで行われた業務については報酬の支払義務があるのが原則です。
特にBtoBの委託契約では、この点の誤解が原因でトラブルが発生しています。
事例①:発注者の一方的な判断で未払いトラブルに
事案概要
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契約内容:業務コンサルティング(準委任契約)
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契約期間:6ヶ月/契約金額:100万円
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契約進捗:2ヶ月経過(進捗率20%)で発注者が解除を通知
発注者の主張
「651条で解除は自由。まだ成果物も出ていないので支払う必要はない」
受注者の主張
「契約開始後にリサーチ、資料整理、分析など多くの工数を消化済。進捗割合に応じて20万円は請求可能」
→ 結果として、契約の解除は認められたものの、履行済分に対する報酬の支払いが必要と判断され、当事者間で報酬支払いと合意解除が成立しました。
なぜ報酬支払義務が残るのか?
① 解除は将来に向けた効力しかない
契約解除の効力は将来に向けて発生するため、それ以前に実施された業務に対する債権は消滅しません。
「契約を切ったから、それまでの作業も無効」は法的に通用しません。
② 成果がなくても報酬は発生する
準委任契約は「成果ベース」ではなく「労務提供ベース」の契約です。
成果が納品されていなくても、作業が行われていれば報酬は当然に発生します。
実務での対応:報酬の決定方法3つ
解除時には、履行済業務に応じた報酬をどのように決定すべきかがポイントです。
方法1:進捗割合による比例配分
たとえば契約全体100万円で進捗20%なら、報酬は20万円とするシンプルな計算方法です。
ただし業務負荷が均等である場合に限ります。
方法2:工数ベースで算出
業務の初期段階で重い作業(環境構築、基礎調査など)が完了していれば、進捗は2割でも報酬は5割近くになるケースもあります。
方法3:契約書・仕様書に基づく配分
業務内容ごとに金額を分けて記載しておけば、その記述に基づいた請求が可能です。
契約書に「フェーズ1:20万円」「フェーズ2:30万円」と明示することでトラブルを予防できます。
事例②:解除対応の失敗で企業イメージが悪化
ある企業が外部のWebライターに準委任契約で記事執筆を依頼していましたが、社内方針の変更で途中解除に。
「まだ記事を公開していないから報酬は払わない」と通告しました。
→ 相手方は不誠実な対応に怒り、SNSでその企業名を公表。
結果として、同社のレピュテーションが傷つき、他の外注パートナーからの信頼も損なう事態に発展しました。
まとめ|「解除自由=未払いOK」ではない
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準委任契約はいつでも解除できますが、それまでに実施された業務に対する報酬支払い義務は残ります。
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成果物の有無ではなく、労務の提供があったかどうかが報酬発生の基準です。
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契約書に明確な業務単位・配分が記載されていることで、後のトラブルを回避できます。
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一方的な解除対応は、法的トラブルだけでなく、企業の信用毀損にもつながるため、慎重な判断と対応が必要です。