はじめに
準委任契約は、業務の途中であっても契約解除が可能です。しかし、解除方法を誤ると、報酬未払いトラブルや信用失墜につながる恐れがあります。
とくに「一方的に解除して、報酬も払わない」といった対応は、民法上の義務を無視しており、トラブルの火種になるばかりか、企業としての信用も損なう可能性があります。
そこで本記事では、未払いリスクを防ぎながら円満に契約を終了する方法として、実務で有効な「合意解除」について、事例や書き方とともに詳しく解説します。
準委任契約の解除|自由だが報酬義務は残る
民法651条では、「委任は当事者のどちらからでもいつでも解除できる」とされています。
つまり、途中で契約を打ち切ること自体は法律上問題ありません。
しかし――
民法648条3項2号により、すでに履行された業務に対しては、報酬を支払う義務があると明記されています。
契約の途中で解除するにしても、「これまでに行った業務の対価はきちんと支払う」というのが法的にも実務上も当然のルールです。
なぜ「合意解除」が必要なのか?
解除自体は自由でも、その後の清算や責任の所在を曖昧なままにしておくと、トラブルの原因になります。
たとえば以下のような問題が発生します:
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「報酬がいくら発生しているか」について双方で認識のズレ
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後から追加請求されたり、反論されたりするリスク
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裁判になった場合に「終了の証拠」がない
このような事態を避けるためには、「解除の条件を文書化した合意解除書」を取り交わすことが望ましいのです。
実務対応ステップ|未払いを防ぎつつ円満に終了する流れ
ステップ①:履行状況のヒアリング
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どの業務が完了しているか(進捗率)
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どれだけの労力・工数がかかっているか
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外注費や交通費など、実費負担が発生していないか
発注者としても、業務の進捗や負担を理解したうえで判断する必要があります。
ステップ②:妥当な報酬の提示
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契約金額 × 履行割合(例:100万円の契約で進捗30% → 30万円)
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もしくは業務ごとに価値を評価(例:初期調査・設計が終わっていれば40万円分相当)
ここで重要なのは、「金額根拠を明確に説明できること」です。
ステップ③:合意解除書の作成・締結
書面で契約の終了と報酬の清算内容を明確にしておくことで、後日のトラブルを防止できます。
合意解除書に含めるべき主な項目
項目 | 記載内容の例 |
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契約の終了日 | 令和●年●月●日 |
履行済業務 | 調査、設計、資料作成など |
報酬金額 | ●●万円、支払期日:●月●日まで |
残務の放棄 | 双方とも、残業務の請求を行わない旨 |
守秘義務 | 契約終了後も有効 |
合意解除書のひな形(抜粋)
実例:合意解除で信頼関係を維持したケース
契約:ITシステム設計業務(準委任契約)
契約金額:150万円
進捗状況:初期ヒアリング・要件定義が完了(進捗約40%)
発注者の都合により途中解除となったが、履行状況を整理し60万円の報酬を提示。
受注者も納得し、合意解除書を交わして円満に終了。
その後、発注者は同じ受注者に別案件を依頼するなど、良好な関係が継続されました。
→ 合意解除の誠実な対応は、単なる清算にとどまらず「信頼の証明」にもなります。
まとめ|解除は自由でも、対応次第で信頼が決まる
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準委任契約はいつでも解除できますが、履行済み業務に対する報酬支払い義務は残ります。
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合意解除書を交わすことで、後日の請求・トラブルを予防し、法的にも安心です。
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解除時に誠意ある対応をすれば、取引相手との信頼関係を維持することも可能です。
契約の終了は「手続き」だけでなく「姿勢」が問われる場面です。
書面でしっかり整理することで、プロとしての信用を守る行動につながります。