はじめに
行政庁から突然届く「指導文書」や「要請通知」。
そこにはこう書かれていることがあります。
- 「この件について改善報告書を提出してください」
- 「今後はこのように運用してください」
- 「立入調査へのご協力をお願いします」
これらはすべて行政指導と呼ばれる行為ですが、果たしてどこまで従わなければならないものなのか?
本記事では、行政指導の法的性質や行政処分との違い、そして現実的な対応方法まで、民泊事業者の実例を交えながら詳しく解説します。
行政指導とは?法的な定義と意味
「お願い」だけど、無視できない存在
行政指導とは、行政機関が申請者や事業者に対して一定の協力を要請する行為のことです。法的には、行政手続法第32条〜第38条に定められています。
✅ たとえば:
- 「業務時間の短縮にご協力ください」
- 「書類を追加で提出してください」
- 「営業内容を改善してください」
いずれも、「命令」や「処分」ではないため法的拘束力はないものの、事業者としては「従わなければ不利益があるのでは…?」と感じるケースが少なくありません。
行政処分との違い
比較項目 | 行政指導 | 行政処分 |
法的拘束力 | なし(あくまで任意の協力) | あり(不服申立て・訴訟の対象) |
主な内容 | 要請、助言、指導 | 許可取消、業務停止命令、命令 |
拒否の可否 | 拒否できる(理論上) | 拒否できない(法的に従う必要) |
根拠法令 | 行政手続法32条〜 | 各業法(例:旅館業法、建設業法)など |
行政指導はどこまで従うべき?【実務的判断のポイント】
拒否してもいい?…現実は難しい判断
行政指導は法的には任意の協力要請ですが、許認可を継続・更新したい事業者にとっては、事実上「従わざるを得ない」空気があります。
行政庁に強く出れば、次回の更新や監督でマークされる恐れもあるため、実務上は“柔らかく受け流しつつ、一部交渉する”という対応が求められます。
✅ 事例①:渋谷区の民泊業者に対する過剰な調査要請
ある住宅宿泊事業者は、渋谷区から次のような行政指導を受けました。
「届け出をしているすべての物件について、賃貸借契約書を全件提出してください」
この事業者は約50件の物件を扱っており、事実上不可能に近い要求でした。
法的には協力義務はありませんが、行政庁に反発することで別の不利益を被る可能性も…。
そこで、特定行政書士が介入し、以下の対応を提案:
- 「提出は物件のうち3割程度に限定したい」
- 「資料は電子データで対応可能か確認」
- 「法令根拠(住宅宿泊事業法第17条)を前提とした範囲に収める」
結果、行政側も柔軟に対応し、業務停止などの重い対応は避けられました。
要請の「根拠法令」を確認するクセを持つ
行政指導に直面した際には、まず「どの法律に基づくものなのか?」を確認しましょう。
行政手続法第35条第3項および、各自治体の行政手続条例では、行政庁は指導の根拠を明示する義務があります。
✅ 渋谷区行政手続条例 第33条 抜粋
- 行政指導をする際は、
- その趣旨
- 責任者
- 根拠条文(例:住宅宿泊事業法第10条 等)
を明確に相手方に示さなければならない。
実際に行政指導を受けたらどうする?|対応の流れと注意点
ステップ①:まずは書面に残す
口頭での行政指導は、必ず「書面での通知」を求めてください。
これにより、内容・日時・担当者が明確になり、不要な誤解やトラブルを防げます。
ステップ②:内容の妥当性・違法性を確認
- 根拠法令に照らして逸脱していないか?
- 要請内容が事業者にとって過剰でないか?
- 他の同業者と比べて平等な扱いか?
※必要に応じて、特定行政書士など専門家と一緒に確認することで、過剰指導への牽制になります。
✅ 事例②:風俗営業店舗が受けた営業時間短縮の“お願い”が撤回された
深夜まで営業していたバーに対し、地元警察署から「今後は24時までに閉店してください」と要請。
しかし、近隣の店舗では26時まで営業しており、明確な基準が存在しませんでした。
そこで、特定行政書士が条例・運用基準を調査。行政庁に対し、
- 指導の根拠不明
- 他店との平等性の欠如
- 実情に沿わない対応
を丁寧に説明し、行政指導の撤回と見直しを実現しました。
特定行政書士に相談するメリット
行政との交渉力が違う
特定行政書士は、行政書士の中でも行政庁との“不服申立て”までを代理できる特別な資格を持っています。
そのため、行政指導に関しても、
- 根拠の提示要求
- 指導内容の妥当性評価
- 提出資料の調整提案
- 将来のリスク回避策
など、多角的な対応が可能です。
法的知識+実務経験のバランスが強み
法解釈だけでなく、現場の事情や行政の空気感に配慮したアプローチができるのが特定行政書士の特徴です。
まとめ|行政指導には「従うだけでなく、交渉する力」も必要
- 行政指導は、法的には「お願い」にすぎず、拒否しても罰則があるわけではありません。
- しかし、実務的には無視できない現実もあり、正しく交渉する力が求められます。
行政対応に悩んだら、まずは「その指導の根拠」と「法的義務の有無」を確認し、必要に応じて特定行政書士のような専門家に相談するのが安全な選択肢です。