はじめに
「契約の進捗は2割だけだから、報酬も2割だけでよい」——
準委任契約において、このような考え方は実務的には大きな誤解です。
準委任契約の本質は「労務の提供」に対する対価であり、「進捗率」と「報酬率」が一致するとは限りません。
むしろ初期段階で大きな労力を伴う業務が終わっている場合、2割の進捗でも5割以上の報酬が発生することもあります。
本記事では、進捗と報酬のズレが生まれる理由、適正な評価方法、契約解除時の交渉ポイントを解説します。
なぜ進捗と報酬は一致しないのか?
準委任契約は、成果ではなく「行為=労働提供」に対して報酬が発生します。
つまり、成果物の完成や提出ではなく、実際に投下された時間・工数・専門性に対して報酬が支払われるべきなのです。
例えば以下のような構成の業務があったとします:
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基礎調査:10%(重労働)
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仕様策定:10%(重労働)
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作業実施:40%
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調整:20%
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報告書作成:20%
見た目の進捗はまだ2工程分=20%ですが、実際には「全体の50%以上の労力」が使われていることが多くあります。
評価基準1:業務構造を分解する
進捗率だけで評価するのは不十分です。
まずは業務全体をプロセスごとに分けて、各工程の重みや負荷を評価しましょう。
例:
工程 | 内容 | 重み | 完了状況 | 評価比率 |
---|---|---|---|---|
基礎調査 | 顧客ヒアリング・調査 | 25% | 完了 | 25% |
資料設計 | 設計・仕様の策定 | 25% | 完了 | 25% |
実作業 | 実務作業(翻訳など) | 30% | 未着手 | 0% |
調整 | 修正対応・交渉 | 10% | 未着手 | 0% |
報告書作成 | 最終成果物 | 10% | 未着手 | 0% |
→ 進捗率としては2/5工程=40%ですが、評価すべき報酬比率は50%になる可能性が高いです。
評価基準2:契約書や仕様書での工数配分
契約書や仕様書に、「各工程ごとの報酬額」が明記されていれば、それが最も明確な評価根拠になります。
例:契約総額100万円の場合
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調査設計:30万円
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翻訳作業:50万円
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報告書作成:20万円
→ 調査設計が完了していれば、進捗が2割でも「30万円分の履行」が成立していると評価されます。
事例:進捗2割でも報酬5割が認められたケース
案件概要
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契約内容:海外市場調査業務(準委任契約)
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総額:80万円
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契約解除タイミング:契約開始から2週間(進捗約25%)
受注者の主張
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現地調査の準備、情報収集、調査設計など、初期作業が重かった
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実際の労力は全体の5割に相当
結果
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発注者も負荷の高さを理解し、報酬40万円で合意
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円満な契約解除に至り、信頼関係も継続
→ ポイントは「作業内容を可視化し、合理的に説明したこと」でした。
注意点:進捗率だけで報酬を判断する落とし穴
進捗率=見た目の完了度
労力=実際に投入された時間・技術・負荷の量
この2つはしばしばズレます。
進捗が2割でも、実際にはもっと重たい作業が完了している場合は、適切に主張することが重要です。
逆に、進捗が8割でも軽作業だけが終わっていた場合、そこまでの報酬が妥当か再検討が必要です。
トラブルを防ぐには?
以下のような対策が、契約時および解除時のトラブルを防ぎます:
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契約時に「業務単位ごとの報酬内訳」を明記する
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工数(時間×単価)をベースに設計しておく
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「初期作業が重い」場合は、その旨を文書化して共有しておく
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契約解除時には、作業内容と負荷を明文化して説明する
まとめ|“労力の可視化”が公正な報酬評価のカギ
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準委任契約では、進捗率と報酬率は一致しません。
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特に初期段階に負荷が集中している場合、進捗2割でも報酬5割以上が妥当なケースもあります。
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契約書に工数配分や報酬割合を明示し、解除時には業務内容を根拠として交渉することが、公正で円滑な関係維持につながります。