岡藩7万石の面影を訪ねて|2泊3日で歩く豊後・竹田の城下町紀行

はじめに|歴史と向き合う、大人のための竹田旅

「最近、ゆっくりと歴史に触れる旅がしたい」——そんな思いをお持ちの方に、ぜひ訪れていただきたい町があります。大分県の南西部に位置する竹田市です。

岡藩7万石の城下町として栄え、瀧廉太郎の名曲「荒城の月」の舞台となった岡城跡を擁するこの町には、800年以上の歴史が静かに息づいています。観光地化されすぎていない佇まいの中で、ゆったりと過去と向き合える——そんな大人の旅にふさわしい場所です。

私は行政書士として、相続や遺言、文化財関連の手続きに関わる中で、「家の歴史」「土地の記憶」を大切にされるシニアの方々と多く接してきました。竹田は、そうした「歴史を読み解く感性」を持つ方にこそ味わっていただきたい町だと感じています。今回は2泊3日のモデルコースとともに、行政書士の視点も交えてその魅力をご紹介いたします。

竹田市はこんな町です

竹田市は、大分県南西部にあり、熊本県と宮崎県に接する自然豊かなエリアです。阿蘇くじゅう国立公園の一角を占め、市内には豊富な湧水が流れています。

  • 岡藩7万石の城下町として江戸時代に栄えた歴史
  • 「荒城の月」を作曲した瀧廉太郎が少年期を過ごした音楽文化の町
  • 隠れキリシタンの里としての独特な宗教史
  • 日本有数の炭酸泉である長湯温泉を擁する湯の里

JR豊後竹田駅まで大分駅から特急で約70分、車であれば大分自動車道・竹田ICから市街地まで約3分。アクセスも比較的良好です。

【1日目】城下町・竹田を歩く

武家屋敷通りで江戸の面影に触れる

初日は市街地の散策からスタートしましょう。豊後竹田駅から徒歩圏内にある殿町武家屋敷通りは、まるでタイムスリップしたかのような石畳と漆喰の白壁が続く美しい通りです。岡藩の家臣たちが暮らした屋敷跡が今も残り、当時の身分制度や町づくりの思想が随所に感じられます。

行政書士の目線で興味深いのは、こうした歴史的建造物の多くが「文化財保護法」や各自治体の条例によって守られているという点です。所有者の方が代替わりされる際には、相続手続きの中で文化財の維持管理についての取り決めが必要になることもあります。古い土地や建物を相続される場合、登記簿や固定資産税評価額だけではわからない「文化的な価値」が含まれていることも少なくありません。ご自身の家系に古い土地や建物がある方にとって、こうした町並みは「我が事」として響くものがあるかもしれません。

武家屋敷通りを歩いていると、当時の士族たちが「家」をいかに大切にしていたかが伝わってきます。屋敷の構造、玄関の位置、庭の作りひとつにも、家格や家督を次代に伝えるという思想が反映されているのです。

キリシタン洞窟礼拝堂と十六羅漢

武家屋敷通りからほど近い場所に、国内でも珍しいキリシタン洞窟礼拝堂があります。岩窟をくり抜いて作られたこの礼拝堂は、江戸時代の禁教令下で信仰を守り続けた人々の祈りの場でした。

また、岩壁に刻まれた十六羅漢も必見です。竹田市最大のイベントである竹楽(ちくらく)の舞台にもなる神秘的な空間で、階段いっぱいに並べられた竹灯籠の光景は秋の風物詩となっています。

瀧廉太郎記念館でゆっくりと

午後は瀧廉太郎記念館へ向かいましょう。廉太郎が12歳から14歳まで過ごした旧居が記念館として公開されており、直筆の楽譜や手紙などの貴重な資料を見ることができます。

「荒城の月」のメロディーが生まれた背景に思いを馳せながら、庭の岩穴や当時の建物の趣を味わってみてください。15分間のビデオ上映もあり、廉太郎の生涯を静かに振り返ることができます。

余談ですが、瀧廉太郎は23歳という若さで亡くなった天才です。残された楽譜や手紙は、ご遺族や関係者の手によって大切に保管され、こうして記念館で公開されています。文化財や芸術作品、著作物の継承もまた、相続にまつわる大切なテーマです。ご家族の中に絵画や書、貴重なコレクションをお持ちの方がいらっしゃる場合、生前のうちに保管方法や承継先を整理しておくことをおすすめします。

【2日目】日本100名城・岡城跡を堪能する

岡城跡の歴史を知ってから訪れる

2日目は、この旅のハイライトである岡城跡をじっくり巡ります。事前に歴史を知っておくと、石垣ひとつ、坂ひとつから感じ取れるものが格段に深くなります。

年代 出来事
1185年(文治元年) 緒方惟栄が源義経を迎えるために築城したと伝わる
1334年(建武元年) 志賀貞朝が城を拡張、「岡城」と呼ばれるように
戦国時代 志賀親次が島津軍を撃退、難攻不落の城として名を馳せる
1594年(文禄3年) 中川秀成が播磨から入封、総石垣の近世城郭へ大改修
明治維新まで 中川家14代、約270年間の居城
1871年(明治4年) 廃城令により建造物が取り壊され、石垣のみが残る

つまり岡城は、源平の時代から明治維新まで、約700年にわたって日本の歴史の節目を見つめ続けてきた城なのです。

三の丸高石垣と本丸跡の絶景

標高325mの天神山山頂に築かれた岡城は、断崖絶壁の上にそびえ立ちます。大手門跡から続く道を進むと、岡城のハイライトである三の丸高石垣が見えてきます。曲線美と防御機能を兼ね備えたこの石垣は、限られた山頂の面積を広げるための工夫でもありました。

本丸跡からの眺望は、まさに絶景。久住の山々を望む雄大な景色を眺めていると、瀧廉太郎が「荒城の月」のメロディーを着想した瞬間が想像されるようです。

行政書士の視点|城と「家督」の物語

中川家が14代、約270年もの間この地を治め続けたという事実は、相続業務に関わる者として深く考えさせられるものがあります。江戸時代の家督相続は、現代の遺産分割とはまったく異なる仕組みで、藩そのものを次代に引き継ぐ重大な営みでした。当主が亡くなった際の相続手続き(当時で言えば家督相続の届出)を誤れば、お家取り潰しの危機にもつながったのです。

現代の民法でも、相続には遺言・遺産分割協議・法定相続といった複数の選択肢があります。江戸時代の大名家ほどの規模ではなくとも、ご自身の財産や思い出の品を「誰に」「どのように」遺すかは、本人にしか決められない重要なテーマです。

  • 遺言書を作成することで、ご自身の意思を明確に残せます
  • 家系図や財産目録を整えることで、ご家族の負担を大きく減らせます
  • 古い土地や建物がある場合は、早めの名義整理が後々のトラブルを防ぎます

現代において、家や土地、思い出の品を「次の世代にどう残すか」を考えることは、誰にとっても大切なテーマです。岡城の石垣を見上げながら、ご自身のご家族の歴史と、これから残していくものについて、少し考えてみるのも竹田の旅ならではの味わいかもしれません。

【3日目】長湯温泉と周辺の史跡を巡る

長湯温泉で旅の疲れを癒す

最終日の朝は、長湯温泉で朝湯を楽しみましょう。長湯温泉療養文化館 御前湯は、ドイツの建築様式を取り入れた木造3階建ての瀟洒な施設です。日本で唯一の重炭酸泉が湧くこの地は、古くから湯治場として親しまれてきました。

もうひとつのおすすめはラムネ温泉館。建築家・藤森照信氏設計の独特な建物自体が見どころで、32度の炭酸泉と42度のにごり湯に交互に浸かれば、心身ともにリフレッシュできます。

歴史好きにおすすめの立ち寄りスポット

  • 白水ダム(白水溜池堰堤)|国の重要文化財に指定された昭和初期の農業土木遺産。曲線を描いて流れ落ちる水の美しさは芸術品のようです
  • 七ツ森古墳群|6〜7世紀に築造された前方後円墳を中心とする古墳群。豊後国の古代史を物語る貴重な遺産です
  • 沈堕の滝|「豊後のナイアガラ」とも称される名瀑で、雪舟も描いたとされる景観です

旅をより深く楽しむためのヒント

季節ごとのおすすめ時期

季節 見どころ
春(3月下旬〜4月上旬) 岡城の桜まつり。日本さくら名所100選にも選ばれる絶景
秋(11月) 紅葉に彩られる石垣。竹田市最大のイベント「竹楽」も同時期に開催
静謐な石垣の佇まいを楽しめる、人の少ない穴場の季節

シニアの方へ、安心して旅するための準備

  • 岡城は石段や坂道が多いため、歩きやすい靴は必須です
  • 所要時間の目安は、岡城だけでじっくり巡って2〜3時間
  • 移動はタクシーや観光タクシーの活用もおすすめです
  • 1泊目は市街地、2泊目は長湯温泉と宿を分けると効率的に巡れます

おわりに|歴史を旅することは、自分を見つめ直すこと

竹田の旅は、ただ観光地を巡るだけの旅ではありません。岡城の石垣の前に立ち、瀧廉太郎の旧居で楽譜を見つめ、隠れキリシタンの祈りの場に身を置く——そうした時間の積み重ねは、自分自身の人生や家族の歩みを、改めて見つめ直すきっかけにもなります。

行政書士として日々お客様と接していると、「自分が大切にしてきたものを、どう次の世代に伝えるか」というご相談を多くいただきます。遺言書の作成、エンディングノートの整理、家系図や財産目録の作成など、形に残せるものはたくさんあります。竹田の旅で歴史の重みに触れたあと、ご自身の「これから残すもの」について考えてみてはいかがでしょうか。

当事務所では、シニアの方を中心に、相続・遺言・終活に関するご相談を承っております。「何から始めればいいかわからない」という段階でも構いません。お一人おひとりのご事情に寄り添いながら、丁寧にサポートさせていただきます。

歴史を旅した後は、ご自身の人生の物語を整える時間を。お気軽にご相談ください。