人口半減の危機に立ち向かう——大分県竹田市が仕掛ける「空き家×移住」の地域再生戦略
高齢化率49%、25年後には人口が半分に。そんな厳しい現実に、九州の山あいの小さな市が本気で挑んでいます。人口減少・空き家問題・移住促進という三つの課題を「バラバラに対処するのではなく、ひとつの仕組みとして解く」という竹田市の取り組みは、全国の地方自治体が直面する問題に対するひとつの答えを示しています。本記事では、竹田市が打ち出した一連の施策——社会人インターンシップ制度、空き家再生バンク、民間企業との連携協定——を詳しく紹介します。空き家問題や移住・定住促進に関心のある方、地方創生の最前線を知りたい方にぜひ読んでいただきたい内容です。
竹田市とはどんな場所か
大分県竹田市は、九州のほぼ中央に位置する人口約19,000人の市です。阿蘇くじゅう国立公園のくじゅう連山、阿蘇外輪山、祖母山麓に三方を囲まれた自然豊かな土地で、「日本名水百選」に選ばれた竹田湧水群や、日本一の炭酸泉とも称される長湯温泉を擁しています。大分空港からは車で約1時間40分、熊本空港からは約1時間30分、福岡市内からでも2時間30分ほどでアクセスできます。九州の中央に位置しながらも、都市部からの移動時間はそれなりにかかる山間の地であることが、豊かな自然環境と表裏一体になっています。
市内は4つのエリアに分かれており、それぞれが異なる個性と産業を持っています。
| 地域 | 特徴・産業 |
|---|---|
| 荻地域 | 標高の高い高原地帯で雄大な景観が広がる。肥沃な土壌と夏季冷涼な気候を活かしたトマト栽培など農業が盛ん。昼夜の寒暖差が大きい高原ならではの気候が農作物に豊かな風味をもたらし、県内外に知られたブランド野菜を生産する農家も多い。農業への関心がある移住者にとっても魅力的な地域。 |
| 竹田地域 | 市の中心部にあたる城下町で、歴史と文化が色濃く残る。唱歌「荒城の月」の瀧廉太郎、日露戦争の英雄・広瀬武夫、文人画家・田能村竹田など先人を多数輩出。桜の名所・岡城跡を中心に武家屋敷の面影を残す石畳の街並みが今も残り、歴史・文化好きの移住者から人気が高い。 |
| 久住地域 | 九州本土最高峰・中岳(標高1,791m)を有するくじゅう連山のふもとに広がる高原地帯。畜産業・高原野菜の栽培が盛んなほか、トレッキング・登山・星空観賞・キャンプなどアウトドア観光地としても人気。ミヤマキリシマの群生地としても知られ、初夏には多くの登山者が訪れる。 |
| 直入地域 | 「日本一の炭酸泉」とも称される長湯温泉を有するエリア。炭酸ガスを大量に含む湯は「飲める温泉」としても知られ、心臓・血管の健康効果を求めて国内外から多くの人が訪れる。温泉街には個性的な旅館・日帰り施設が立ち並び、温泉を活かした観光業と農業が地域の柱。 |
このように竹田市は、豊かな自然・歴史・食・温泉という多様な魅力を持つ地域です。しかし一方で、全国的な趨勢と同様、深刻な人口減少と高齢化という課題を抱えています。
25年後、人口は「半分」になる——危機の実態と数値目標
竹田市の人口推計によれば、このまま何もしなければ2045年には人口が現在の半分程度にまで減少するといいます。高齢化率はすでに49.02%に達しており、これは全国平均(約29%)をはるかに上回る水準です。森林面積が69.2%を占める山間地特有の過疎化が加速しており、若年層の都市部への流出と、高齢化による自然減の両方が重なることで、人口減少に拍車がかかっています。
こうした人口構造の変化は、地域経済や行政サービスにも深刻な影響を及ぼします。働き手が減れば地域産業が衰退し、税収が減れば公共サービスの水準維持も難しくなります。学校の統廃合、バスや鉄道などの交通インフラの縮小、医療・介護施設の撤退——こうした変化が連鎖することで、住みにくい環境がさらなる人口流出を招く悪循環が生じます。竹田市はすでにその入口に立っており、手を打たなければ地域社会の維持そのものが困難になりかねない状況です。
この危機に対して市が打ち出した目標は、2045年時点で現状の推計より1,081人多い人口を維持することです。一見すると小さな数字に思えるかもしれませんが、急速な人口減少が続く中でこの数を「上乗せ」するためには、相当な継続的努力が必要です。
📌 竹田市が掲げる2045年の数値目標
目標:現状推計より 1,081人多い人口を維持
- 20〜40代男女の社会減を毎年20人抑制(例:100人流出する予定を80人に抑える)
- 合計特殊出生率を現在の1.5から、2025年までに1.8・それ以降は2.1へ引き上げ
1つ目の「社会減を毎年20人抑制する」という目標は、一見地味に見えますが、この差を毎年積み重ねることで25年後には大きな違いを生みます。人口の流出そのものをゼロにすることは現実的ではなく、「減り幅を少しずつ抑え込む」という現実主義に貫かれたアプローチです。若者の流出を完全に止めることは難しくても、地域に魅力を感じて残る人・移り住む人を少しずつ増やしていくことが、長期的な人口維持につながります。
2つ目の合計特殊出生率の引き上げは、一人の女性が15歳から49歳までの間に産む子どもの数の平均を示す指標で、2.07前後が人口維持の目安とされています。現在1.5という竹田市の数値を1.8、さらに2.1まで引き上げるためには、子育て環境の充実と移住施策が密接に連動する必要があります。移住者が地域に定着し、安心して子育てできる環境が整うことで、出生率の向上にもつながるという好循環を目指しています。これらの目標はいずれも、「ゼロから新しい産業を作る」といった劇的な変革ではなく、地道に積み上げる継続的な取り組みによって達成を目指すものです。
「暮らし」から「しごと」まで——社会人インターンシップ制度の設計思想
移住を検討する人が直面する最大の不安は何でしょうか。多くの場合、それは「仕事があるか」と「地域に馴染めるか」という2点に集約されます。都市部の企業に勤めながら田舎暮らしへの憧れを抱いている人は少なくありませんが、いざ移住を考えると「仕事を辞めてまで移住するのはリスクが大きい」「田舎の人間関係はよそ者に厳しいのでは」という壁に阻まれます。実際に移住してから「思っていたのと違った」と後悔しないためには、事前に現地の仕事と生活を体感できる機会が重要です。
竹田市は2023年(令和5年)から、若者・子育て世帯を対象とした社会人インターンシップ「たけた暮らし体感!インターンシップ」を実施しています。このプログラムは、「地域体験型」と「しごと型」の2種類を組み合わせた2泊3日以上の体験型滞在が特徴です。移住前に「暮らし」と「仕事」の両方を体験することで、移住後のミスマッチを防ぎ、安心して一歩を踏み出せる環境を整えています。
しごと体験:15社・7プログラムが参加
農業・観光・製造業・福祉など多様な業種の企業が参加しており、会社理念の紹介から実際の職場体験、社員との交流まで、就職につながる濃密な体験ができます。ただ職場を見学するだけでなく、実際に働いている人の声を聞き、仕事の現場を自分の肌で感じることができる点が、オンラインの求人情報では得られない大きな価値です。将来のUターンやIターンを考えている人が、具体的な働き先のイメージを持てるかどうかは、移住の決断に大きく影響します。
- 現在15社が登録・7つのプログラムを提供(農業・観光・製造業・福祉など)
- 会社理念の紹介から職場体験・社員との交流まで一貫した体験設計
- 就職につなげることを目的とした実践的な内容
- 将来のUターン・Iターンを考える人が働き先のリアルなイメージを持てる
暮らし体験:「田舎の人間関係」への不安を事前に解消
移住定住支援センターや地域コミュニティ組織が地域交流・空き家紹介などのプログラムを提供しています。注目すべきは、「田舎の人間関係」への不安解消を明確に意識した設計になっている点です。移住を妨げる要因として「田舎の濃い人間関係がわずらわしそう」「よそ者扱いされそう」という声は各地の移住相談でよく聞かれますが、竹田市はこの課題を正面から受け止め、地域の人と事前に交流できる機会を組み込んでいます。実際に地域の人と話し、集落の雰囲気を感じることで、移住後の不安を事前に和らげる効果があります。
- 地域交流・空き家紹介・農業体験などのプログラムを提供
- 「地域カルテ」で観光パンフレットには載らない生活者目線のリアルを可視化
- 地域の案内人を選出し、移住検討者の現地案内を丁寧にサポート
- 移住後に「思っていたのと違う」と感じるリスクを事前に最小化
🔗 三位一体の体制で移住事業を展開
| 主体 | 主な役割 |
|---|---|
| 行政・移住定住支援センター | 補助金案内・空き家バンク紹介・移住者の紹介・農業体験のコーディネート |
| 市内企業 | 会社理念の紹介・職場体験・社員との交流の場を提供 |
| 地域運営組織 | 地域体験・案内人の選出・地域カルテ作成・空き家の掘り起こし |
こうした官民・地域が連携した三位一体の体制は、各主体が得意分野に集中することで全体として高い効果を生み出す仕組みです。行政単独の移住施策ではカバーしきれない「人のつながり」や「仕事の現場感」を、企業と地域が補完することで、移住体験の質が大きく高まっています。竹田市特設サイト「キャリターン」では、これらの情報がまとめて公開されており、移住を検討する人が情報収集しやすい環境も整えられています。
空き家問題の「二層構造」——バンクで救えない物件をどうするか
移住促進の大きな障壁のひとつが、空き家問題です。日本全国で空き家の数は年々増加しており、地方都市では特にその深刻度が高くなっています。竹田市のように高齢化率が49%を超える地域では、住人が亡くなったり介護施設へ転居したりすることで空き家が生まれるペースが、新たな入居者を迎えるペースを上回りやすくなります。空き家は適切に管理されなければ、老朽化・倒壊リスク・不法侵入・景観の悪化など、地域全体の問題へと発展します。
竹田市では従来、「竹田市空き家バンク」制度により、すぐに住める状態の物件の流通を促進してきました。空き家バンクとは、空き家の所有者と利用希望者をマッチングする仕組みで、自治体が運営する一種の不動産情報サービスです。しかし、この制度には大きな構造的限界がありました。
⚠ 従来の空き家バンクが抱える構造的限界
- 「住める状態の物件」しか登録・流通できない
- 老朽化が著しい物件・相続問題・境界問題・抵当権付き物件は対象外
- 所有者も手放せず放置が続く→景観悪化・防犯・防災リスクに
- 空き家が増え続けているのに、制度の外に取り残される物件が多数存在
つまり空き家問題には「住める物件の流通促進」と「住めない物件の再生・解体」という二層の課題があり、従来の空き家バンクは前者にしか対応できていなかったのです。「空き家バンクへの登録を勧めても、老朽化していて登録できない」「所有者はどうにかしたいが方法がない」という声が積み重なる中、竹田市はこの構造的な問題を解消するために新たな施策を打ち出しました。それが「竹田市空き家再生バンク」です。
新設「空き家再生バンク」——老朽物件にも光を当てる仕組み
2024年10月1日、竹田市は新たに「竹田市空き家再生バンク」制度を開始しました。これは、解体せざるを得ない物件を除き、老朽化した空き家を「再生」して利活用へつなげる仕組みです。運営は一般社団法人移住定住支援センターが担い、市と連携しながら物件の査定・マッチング・再生支援を行います。
制度の流れはこうです。まず、空き家の所有者(個人や法人等)が総務課へ登録申請を行います。所有権や売却・貸借を行う権利を持つ者であれば申請でき、所有者移転がまだ完了していない物件については、手続きが済んでから申請することが案内されます。登録申請を受けた後、空き家再生の専門員が内見査定を行い、物件の状態を確認した上で以下の4段階に振り分けます。
| 区分 | 状態 | 対応・流通方法 |
|---|---|---|
| ❶ | そのまま利用できる物件 | 竹田市空き家バンクに登録し、移住Webサイト等で広く公開。所有者と利用希望者をマッチング。 |
| ❷ | 環境整備で利用できる物件 | 「空き家登録物件整備事業補助金」等を活用して草刈り・清掃・修繕を実施し❶へ格上げ。 |
| ❸ | リノベーション等の改修が必要な物件 | 閲覧者限定フォームで公開し、再生希望者とマッチング。再生計画を提出した上で活用。購入は名義変更後、賃貸は定期貸借契約等の条件を付す。 |
| ❹ | 危険家屋 | 解体業者へ案内。ただし精査で再生可能と判断された場合は再生バンクへ登録案内。 |
再生後の活用用途と補助金制度
再生後の活用用途は一般住居をはじめ、店舗・社宅・シェアハウス・賃貸住宅・福祉施設など多岐にわたります。空き家という「負の遺産」になりかねない資産を、地域の活力へと転換するための補助金も充実しています。
💰 空き家Re・Born(再生)補助金
- 補助上限:100万円・補助率:1/2
- 対象:シェアハウス、飲食店などの店舗、社宅、技能実習生居住施設、福祉施設 など
- 移住・定住促進を目的とした再生に活用可能
この制度の重要な点は、所有者と利用希望者の間に専門員が入り、単なるマッチングにとどまらず「再生計画のコーディネート」まで担う体制を整えている点です。不動産取引に不慣れな高齢の所有者が多い地方の実情を考えると、専門家のサポートがあることで物件の流通が大幅に進みやすくなります。「空き家をどうにかしたいが、どこに相談すればいいかわからない」という所有者の声に応える窓口として機能することが期待されています。
民間企業との連携——株式会社AlbaLinkとの包括協定が意味するもの
制度の実効性を高めるために、竹田市は民間企業との連携も積極的に進めています。2024年10月に締結した株式会社AlbaLinkとの包括連携協定は、その象徴的な取り組みのひとつです。
AlbaLinkは東京都江東区に本社を置く不動産会社で、全国に先駆けて空き家・訳あり物件の買取・再販を専門的に手がけています。相続問題を抱えた物件、再建築不可の土地にある物件、老朽化が著しい物件——通常の不動産市場では扱いにくいケースを積極的に取り扱うことで知られており、同社のミッションは「空き家をゼロにする」という明確なものです。竹田市の抱える課題とAlbaLinkの事業ミッションが合致したことで、今回の連携協定につながりました。
協定の主な連携事項(3点)
- 所有者等による空き家等の利活用相談への対応(法的問題・複雑な相続案件を含む)
- 市場流通見込みのない空き家等の再生・活用支援
- AlbaLink社員を「竹田市副業型地域活性化起業人」に任命し現地業務に関与させる
任命されたのはAlbaLinkの原裕太郎氏で、2024年10月1日付で就任しました。この専門員は月20〜24時間、市内またはオンラインで業務にあたり、老朽空き家の再生バンクへの登録促進、センター職員への同行・現地調査、専門的知識に基づく再生提案や助言、再生希望者の計画に応じた物件コーディネートなどを担います。
📝「副業型地域活性化起業人」制度とは
総務省が推進する制度で、民間企業の社員が副業として地方自治体の業務に関与する仕組みです。都市部の専門人材を地方に取り込みつつ、企業側にとっても社員のスキルアップや地域貢献につながるメリットがあります。
竹田市の場合、空き家再生という高度な専門知識が求められる分野に、民間の第一線で活躍するプロを月単位で関与させることができるため、行政単独では到底実現できない専門性を確保できています。所有者が空き家を手放せない理由のひとつに「誰に相談すればいいかわからない」という情報の非対称性がありますが、AlbaLinkのような専門企業が関与することで、安心して相談できる窓口が生まれます。
この取り組みが示すもの——地方再生の新しいモデル
竹田市の一連の取り組みが示していることは、地方の人口減少問題や空き家問題は、単独の施策では解決できないという事実です。
- 移住促進策だけ充実させても、住む場所(空き家)が流通していなければ移住者は来られない
- 空き家の流通を促進しても、仕事や地域とのつながりがなければ移住者は定着しない
- 出生率を上げるためには子育て環境の充実が必要で、それには一定の人口や税収の安定が前提になる
- これらの課題は互いに連動しており、それぞれを独立して解くのではなく、連携させながら同時並行で取り組む必要がある
竹田市が構築しようとしている仕組みは、まさにその連動を意識したものです。社会人インターンシップで移住候補者に「仕事」と「暮らし」の両面を体験させ、空き家再生バンクで住む場所を確保し、民間専門家の力を借りて老朽物件を再生する——各施策がひとつの流れとしてつながっています。また、行政が単独で抱え込まず、移住定住支援センター、地域運営組織、市内企業、民間不動産会社という多様なプレイヤーを役割分担しながら動かしている点も重要です。行政にできないことは民間や地域に委ね、民間にできないことは行政が制度設計や補助金で支える——この協働の姿勢が施策全体の実効性を高めています。
📋 まとめ——竹田市の取り組みから学べること
- 人口減少・空き家・移住は「連動した課題」として一体的に設計することが重要
- 数値目標を明確にし、「できることから着実に」積み上げる現実主義が地方再生の鍵
- 行政・民間・地域コミュニティの三位一体で役割を明確に分担する
- 都市部の専門人材を「副業型」で地方に取り込む新しいモデルが機能する
- 空き家は「住める物件」「再生が必要な物件」「危険家屋」の3層に分けて対処する
- 民間企業との連携協定で、行政単独では担えない専門性を確保する
人口減少・高齢化・空き家問題は、竹田市だけが直面している課題ではありません。今後数十年にわたり、日本全国の地方都市が同じ問題に向き合うことになります。その意味で、竹田市の取り組みは一地方都市の事例を超えて、全国の自治体にとっての参考モデルになりうるものです。数値目標を明確に掲げ、行政・民間・地域が役割を分担しながら仕組みを構築するというアプローチは、他の自治体でも応用できる普遍性を持っています。
人口19,000人の小さな市が、「25年後の1,081人」という具体的な数値目標を掲げ、制度・民間連携・地域コミュニティを束ねて挑む姿勢は、困難な状況の中でも地域の未来を諦めない取り組みとして注目に値します。空き家の所有者、移住を考えている方、地方創生に携わる行政関係者——それぞれの立場から、竹田市の挑戦に何かヒントを見出していただけるのではないでしょうか。今後の展開に引き続き注目していきたいと思います。
