カスハラは何罪?威力業務妨害・強要・脅迫の成立要件と判定表

⚠ 「これくらいで警察は動かない」と思い込んでいませんか。罪名を特定できれば対応は変わります。手遅れになる前に、今すぐ無料でSOSをお送りください。

この記事では、カスハラ行為がどの犯罪にあたりうるかを解説します。実際に告訴する手順や告訴状の書き方は、別記事で扱っています。

この記事でわかること

「これって犯罪じゃないんですか」。現場から最も多く上がる疑問です。そして多くの場合、その直感は間違っていません。長時間の居座り、土下座の要求、退去に応じない行為。これらはいずれも、刑法上の構成要件に該当しうるものです。

罪名を特定できると、対応が一段階進みます。警察に通報する際の説明が変わり、警告書に書ける内容が変わり、告訴の可否を判断できるようになります。逆に、罪名が言えないままだと、「困っています」という訴えにとどまり、事態は動きません。

この記事では、カスハラの場面で問題になる主な罪名について、成立の目安を整理します。

正当なクレームと犯罪の境界線

前提として、苦情を述べること自体は当然に認められています。商品に不具合があれば、その是正を求めるのは正当な行為です。問題になるのは、要求の中身ではなく、その手段や態様です。

指針が示す三つの要件

2026年2月26日に公布された指針は、カスタマーハラスメントを次の三要素で定義しています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
  3. 労働者の就業環境が害されること

あわせて、正当な苦情や要望など、社会通念上許容される範囲の申入れはこれに該当しないことも明示されています。

指針上のカスハラと、刑法上の犯罪は別の判断

ここは混同されやすい点です。指針にいうカスハラに該当するからといって、直ちに犯罪が成立するわけではありません。逆に、指針の定義にうまく当てはまらない行為でも、犯罪が成立する場合があります。

会社としては、この二つを別のレイヤーとして扱ってください。指針への該当性は「社内でどう対応すべきか」の判断に、犯罪の成否は「外部の手続に進めるか」の判断に使います。

要求内容が正当でも、手段が違法になる

実務上、最も重要な視点です。商品に本当に欠陥があったとしても、その是正を求める手段が度を越えれば、刑事上の問題になります。「相手の言い分にも一理あるから強く出られない」という判断が、対応を遅らせる最大の原因です。

要求の正当性と、手段の違法性を切り離して考えてください。この整理ができると、対応の方針が一気に定まります。

カスハラで問題になる主な罪名の一覧

詳細に入る前に、全体像を示します。法定刑の重さは、捜査機関がどの程度優先的に扱うかにも影響します。

罪名 条文 法定刑 カスハラでの典型例
威力業務妨害罪 刑法234条 3年以下の拘禁刑/50万円以下の罰金 長時間の居座り、多数回の架電
強要罪 刑法223条 3年以下の拘禁刑 土下座・謝罪文の強要
恐喝罪 刑法249条 10年以下の拘禁刑 害悪を告知しての金銭要求
脅迫罪 刑法222条 2年以下の拘禁刑/30万円以下の罰金 「晒す」「待っている」等の告知
不退去罪 刑法130条後段 3年以下の拘禁刑/10万円以下の罰金 退去要求に応じない
建造物侵入罪 刑法130条前段 3年以下の拘禁刑/10万円以下の罰金 出入禁止通知後の立ち入り
名誉毀損罪 刑法230条 3年以下の拘禁刑/50万円以下の罰金 SNSへの虚偽投稿
侮辱罪 刑法231条 1年以下の拘禁刑等 公然での人格否定発言
暴行罪 刑法208条 2年以下の拘禁刑/30万円以下の罰金等 物を投げる、唾を吐く
傷害罪 刑法204条 15年以下の拘禁刑/50万円以下の罰金 精神的不調の惹起を含む

なお、2025年6月1日から懲役および禁錮は拘禁刑に一本化されています。古い解説記事では「懲役」と表記されているものがありますが、内容が変わったわけではありません。

威力業務妨害罪(刑法234条)

カスハラの場面で最も多く問題になる罪名です。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。

成立しうる典型的な行為

  • 店内での長時間の居座りにより、他の客への対応ができなくなった
  • 大声を上げ続け、周囲の業務が中断した
  • 多数回にわたる架電により、電話窓口が機能しなくなった
  • 従業員を長時間拘束し、本来の業務ができなくなった

「威力」とは何か

暴力を伴わなくても成立しうる、という点が実務上重要です。人の意思を制圧するに足りる勢力であればよく、大声、多人数での来店、長時間の滞留といった態様も含まれます。

「殴られたわけではないから犯罪ではない」という思い込みが、対応を止めてしまうことがあります。実際には、静かな口調であっても、長時間にわたって業務を止め続ける行為は問題になりえます。

成立しにくいケース

一回・短時間の出来事は、業務への影響が限定的と判断されやすくなります。したがって、この罪名を検討する場合、反復性と継続性の立証が鍵になります。ここでも記録の有無が結論を分けます。

現場での見え方と、立証のポイント

この罪名を検討する場合、押さえるべきは「業務がどう妨げられたか」です。相手の言動がどれだけ不快であっても、業務への影響が示せなければ評価は難しくなります。

  • 通話時間と回数 ── 一件あたり何分、月に何回か。数値で示せる形にしてください。
  • 他の業務への影響 ── 対応中に他の客を待たせた、他の電話を取れなかった、といった具体的事実。
  • 従業員の稼働 ── 対応に何名が何時間を要したか。
  • 営業への影響 ── 他の客が退店した、予約がキャンセルされた等。

これらは、いずれも日々の記録から拾えるものです。特別な調査は必要ありません。逆に、記録がなければ後から作ることもできません。

強要罪(223条)・恐喝罪(249条)

土下座・謝罪の強要

義務のないことを行わせる行為は、強要罪の問題になります。法定刑は3年以下の拘禁刑です。土下座の要求、始末書の作成の要求、自宅への訪問と謝罪の要求などが典型例です。

ポイントは、こちらに応じる義務がない事項かどうかです。商品の交換に応じる義務があるかどうかと、土下座に応じる義務があるかどうかは別問題であり、後者に義務はありません。

金銭・商品の要求

害悪を告知して金銭や物を交付させれば、恐喝罪の問題になります。法定刑は10年以下の拘禁刑と、カスハラで問題になる罪名の中では重いものです。

「対応が悪いから慰謝料を払え」「上乗せして返金しろ」といった要求に、ネット上での拡散や勤務先への連絡といった告知が伴う場合は、この罪名が視野に入ります。

強要と恐喝の違い

強要罪 恐喝罪
何をさせたか 義務のない行為をさせる 金銭・財物を交付させる
法定刑 3年以下の拘禁刑 10年以下の拘禁刑
典型例 土下座、謝罪文の作成 返金の上乗せ、慰謝料の要求

なお、「返金しないと帰らない」というように、複数の罪名が同時に問題になる場面は珍しくありません。どれか一つに絞る必要はありません。

「無償にしろ」という要求はどちらか

現場でよく生じる疑問です。金銭の交付を求めているわけではないが、支払うべき代金を免れようとしている、という場面です。

財産上の利益を得る行為として恐喝の問題になりうる一方、要求の態様によっては強要として整理されることもあります。実務上は、どちらか一方に決めつけず、両方を視野に入れて記録を残しておくのが安全です。重要なのは罪名の分類ではなく、「何と引き換えに何を求めたか」を明確に記録することです。

脅迫罪(222条)

生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知する行為です。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金とされています。

「ネットに晒す」は脅迫にあたるか

名誉に対する害悪の告知として問題になりうる類型です。ただし、成立するかどうかは告知の内容と文脈によります。単に「口コミを書く」と述べただけであれば、消費者としての正当な行動の告知とも評価されえます。

他方で、「事実無根の内容を書く」「勤務先や家族に知らせる」といった内容が伴う場合、評価は変わってきます。発言をそのまま記録しておくことが、この判断を可能にします。

従業員個人に向けられた場合

「お前の顔は覚えた」「帰り道に気をつけろ」といった発言は、従業員個人に対する害悪の告知として問題になります。この場合、被害者は会社ではなく従業員本人です。会社としては、本人の意向を確認したうえで対応を検討することになります。

記録の取り方が結論を分ける

脅迫は、発言そのものが構成要件に直結する類型です。したがって、記録において最も差が出ます。

記録の比較

  • 使えない ── 「脅すような発言があった」
  • 使える ── 「18時33分、『会社の前で待ってるからな』との発言」

前者は書いた人の評価であり、後者は事実の記録です。どちらの記録が手元にあるかで、その後に取れる選択肢がまったく変わります。

不退去罪・建造物侵入罪(130条)

いずれも法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金とされています。

「帰ってください」と言うことの法的な意味

不退去罪は、退去の要求を受けたにもかかわらず退去しない場合に問題になります。したがって、退去を求めたという事実そのものが、成立の前提になります。

実務上、ここが最も取りこぼされています。長時間の居座りに困っていても、明確に「お帰りください」と伝えていなければ、この罪名は検討しにくくなります。伝えた時刻を記録に残すことまでを、現場のルールにしてください。

出入り禁止を通知した後の来店

書面で出入り禁止を通知していた場合、その後の立ち入りは法的な評価が変わります。あらかじめ通知しておくことが、後の対応の幅を広げるということです。

現場に落とし込むなら

この罪名を実際に使える状態にしておくために、次の三つを社内ルールにしてください。手間はほとんどかかりません。

  1. 退去を求める言葉を統一する。「お引き取りください」と明確に伝える。曖昧な表現では退去要求と評価されにくくなります。
  2. 伝えた時刻を記録する。誰が、何時何分に伝えたか。
  3. 複数回伝える。一度で応じない場合、時間を置いて再度伝え、それぞれの時刻を残す。

この三つが記録されていれば、通報の場面でも、告訴を検討する場面でも、説明が明確になります。

名誉毀損罪(230条)・侮辱罪(231条)

公然性という要件

いずれも、不特定または多数の者が知りうる状態でなされたことが要件になります。二人だけの電話でのやりとりは、通常この要件を満たしません。

他方、他の客が居合わせる店内での発言は、公然性が認められうる場面です。SNSへの投稿は、公然性が認められやすい典型といえます。

法人に対する場合と、従業員個人に対する場合

会社の社会的評価を低下させる内容であれば法人が、従業員個人を対象とするものであれば当該従業員が、それぞれ被害者になります。どちらが被害者かによって、手続を進める主体が変わります。

なお、名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも告訴がなければ起訴できない罪であり、告訴には期間の制限があります。時間の経過が不利に働く類型ですので、投稿を発見したら早めに方針を決めてください。

投稿を発見したらまずやること

名誉毀損・侮辱の類型では、時間との勝負になります。投稿は削除され、通信の記録も永久に残るわけではありません。発見した時点で次の三点を行ってください。

  1. 投稿のURL、投稿日時、アカウント名を控える
  2. 画面全体をスクリーンショットで保存する(切り抜かない)
  3. 社内の誰が、いつ発見したかを記録する

この作業は数分で終わります。逆に、これを怠ると、後でどれだけ費用をかけても復元できません。「まず消したい」という衝動が働きますが、保全を先に済ませてから削除に進んでください。

暴行罪(208条)・傷害罪(204条)

物を投げつける、書類を叩きつける、唾を吐くといった行為は、身体への直接の接触がなくても暴行として問題になりえます。

また、継続的な言動により従業員が精神的な不調をきたした場合、傷害として評価される可能性があります。この場合、診断書が事実上唯一の客観的資料になりますので、本人が受診を希望する場合には、その記録を残しておいてください。

精神的な不調が生じた場合の実務

継続的なカスハラにより従業員が不調をきたした場合、対応は二方向に分かれます。相手方に対する責任追及と、会社としての労務上の対応です。

  • 本人が受診を希望する場合、診断書を取得しておく。客観的な資料はこれ以外にほとんどありません。
  • 発症の時期と、カスハラ行為の時期との対応関係が分かるよう、記録を時系列で整理する。
  • 業務起因性が問題になる場合、労災の申請を検討する余地がある。
  • 会社としては、業務からの一時的な離脱や配置の変更など、負担を軽くする措置を先に取る。

刑事手続を検討することと、従業員を守ることは別の作業です。前者に時間がかかる間も、後者は今日から実行できます。順序を誤らないでください。

罪名判定の早見表

現場で起きた行為から、検討すべき罪名を逆引きできるようにまとめました。あくまで目安であり、実際の成否は個別の事情によります。

行為 主に検討する罪名 成立の鍵
長時間・多数回の架電 威力業務妨害 反復性と業務への影響
店内での居座り 不退去/威力業務妨害 退去を求めた事実と時刻
大声・怒号 威力業務妨害 他の客・業務への影響
土下座・謝罪の強要 強要 応じる義務がないこと
金銭の上乗せ要求 恐喝 害悪の告知の有無
「晒す」との予告 脅迫 告知の内容と文脈
SNSへの虚偽投稿 名誉毀損 公然性と事実の摘示
従業員への暴言 侮辱 公然性(第三者の存在)
物を投げる・叩きつける 暴行 身体への接触は不要
出入り禁止後の来店 建造物侵入/不退去 事前の通知の有無

罪名を知ることが、なぜ現場を変えるのか

この記事を読む方の多くは、告訴を前提としているわけではないと思います。それでも罪名を把握しておく意味は、三つあります。

一、通報の場面で対応が変わる

警察に通報する際、「困っています」「対応してください」だけでは、何を求められているのかが伝わりません。一方、「退去を求めましたが応じません」「威力業務妨害にあたると考えています」と伝えられれば、話は具体的になります。罪名を言えるかどうかは、その場の対応を左右します。

二、現場の従業員が我慢しなくなる

現場が耐え続ける最大の理由は、「これくらいは客の権利の範囲かもしれない」という迷いです。どこからが犯罪になりうるのかを知っていれば、この迷いが消えます。「今の発言は脅迫にあたりうる」と認識できれば、その場で対応を切り替えられます。

研修でこの点を扱うと、現場の反応が明確に変わります。多くの従業員は、我慢したくて我慢しているのではなく、基準を知らないために動けずにいます。

三、書面の説得力が変わる

警告書に「社会通念上許容される範囲を超えるものと考えます」と書くのと、行為の具体的な態様を記載したうえでそう述べるのとでは、相手の受け止め方が違います。罪名を明示するかどうかは別として、その構造を理解して書かれた文章は、相手に伝わります。

罪名が分かっても、そのままでは動かない三つの壁

罪名が特定できることと、実際に手続が進むことの間には距離があります。あらかじめ知っておくと、対応の設計が変わります。

壁1:民事の紛争と見られる

背景に返金や契約のトラブルがあると、「当事者間の民事の問題」と整理され、捜査機関が関与しにくくなります。対策は、要求の内容と行為の態様を切り分けて説明することです。「返金でもめています」ではなく「退去を求めましたが応じません」と伝える。この違いが対応を分けます。

壁2:反復性を示せない

カスハラで問題になる罪名の多くは、一回の出来事では判断が難しいものです。三件、四件と並べて初めて全体像が見えます。したがって、決め手になる一件を待つのではなく、日常的に記録を積み上げることが結果的に近道になります。

壁3:告訴期間・時効

名誉毀損罪と侮辱罪は、告訴がなければ起訴できない罪であり、告訴には期間の制限があります。犯人を知った時から一定期間を過ぎると告訴ができなくなるため、投稿を発見した場合は早期に方針を決める必要があります。

よくある質問

罪名を相手に伝えてもよいですか

警告書の中で、行為が刑法上の問題になりうる旨を指摘すること自体は可能です。ただし、断定的に「あなたは犯罪者だ」と述べることは避けてください。名誉に関わる問題を生じさせるおそれがあります。「社会通念上許容される範囲を超えるものと考えます」「法的措置を含む対応を検討します」といった表現にとどめるのが実務的です。

複数の罪名にあたりそうです。どれを選ぶべきですか

一つに絞る必要はありません。実際、長時間の居座りは不退去と威力業務妨害の双方が問題になりますし、そこに金銭要求が加われば恐喝も視野に入ります。手続に進む際は、最も立証しやすいものを主軸に据え、他を併記するという整理が一般的です。

相手が未成年、または高齢で判断能力に問題がありそうです

この場合、刑事手続によって解決を図ることが適切かどうかから検討する必要があります。ご家族や関係機関との連携によって解決するほうが、結果的に早く確実であることも少なくありません。会社としては、まず接触の遮断によって従業員を守ることを優先し、そのうえで方針を決めてください。

過去の分についても罪に問えますか

罪名ごとに公訴時効の期間が定められており、経過したものは対象外になります。もっとも、時効が完成している過去の行為であっても、現在の行為の悪質性を示す事情として意味を持つことがあります。記録が残っているのであれば、そのまま保管しておいてください。

現場に配る「判断の目安」の作り方

この記事の内容を、そのまま現場に渡しても使われません。実務で機能させるには、自社の業務に即した形に落とし込む必要があります。

自社で起きうる行為を洗い出す

まず、過去一年間に実際に起きた事案を並べてください。抽象的な定義より、自社で現に起きた事例のほうが、現場は理解できます。十件も集めれば、業種特有の傾向が見えてきます。

三段階で色分けする

段階 内容 現場の対応
正当な苦情・要望 通常対応。記録は簡易でよい
許容範囲を超えつつある 記録を詳細に。上長へ報告
犯罪が成立しうる 現場判断を待たず上長が引き取る/通報

この三段階に、洗い出した実例を当てはめていきます。「こういう発言があったら黄」「こうなったら赤」という具体例が並んでいれば、現場は迷いません。

一枚に収める

現場が参照する資料は、一枚に収まっていなければ使われません。詳細な解説は別途保管し、現場には判断の目安だけを渡してください。掲示するのではなく、各自が携帯できる形が理想です。

罪名を検討するときの実務的な順序

現場で起きた出来事から罪名を考える際、次の順序で見ていくと整理しやすくなります。

第一に、身体への接触や物の投擲があったか

あれば暴行、結果が生じていれば傷害の問題です。この類型は判断が明確で、通報の判断も迷いません。被害者は従業員個人になります。

第二に、その場から帰らなかったか

退去を求めたにもかかわらず帰らない場合、不退去の問題になります。出入り禁止を通知していれば、立ち入り自体が問題になります。この類型は、退去を求めた事実と時刻の記録があるかどうかで結論が変わります。

第三に、業務が止まったか

止まっていれば威力業務妨害の問題です。カスハラで最も多く使われる罪名であり、反復性と業務への影響を示せるかどうかが鍵になります。

第四に、何かを要求されたか

金銭の交付を求められていれば恐喝、義務のない行為を求められていれば強要の問題です。要求の内容と、それに伴う告知の有無を確認してください。

第五に、公然と述べられたか、発信されたか

他の客がいる場での発言、SNSへの投稿であれば、名誉毀損や侮辱の問題になります。この二つは告訴の期間に制限があるため、時間の経過に注意が必要です。

この順序で見ていくと、多くの事案は複数の罪名にまたがることが分かります。一つに絞る必要はありません。手続に進む際は、最も立証しやすいものを主軸に据えてください。

罪名を社内でどう共有するか

一覧を配るだけでは不十分

法定刑を並べた表を配っても、現場の行動は変わりません。必要なのは、「この発言があったら記録の書き方を変える」という具体的な運用です。

記録の切り替え基準にする

  • 退去を求めた → 求めた時刻を必ず記録する
  • 金銭や特別な対応を求められた → 要求の文言をそのまま記録する
  • 投稿を予告された → 予告の文言と、その前後の要求内容を記録する
  • 身体への危害があった → 直ちに通報し、受診の要否を確認する

罪名の知識は、この四つの行動に落とし込めれば十分です。現場に求めるのは判定ではなく、記録の切り替えです。判定は後から専門家が行えます。

罪名を誤解しやすい四つの場面

一、要求内容が正当だと、何も言えないと考えてしまう

商品に欠陥があったことと、要求の手段が違法であることは、別の問題です。前者について誠実に対応しつつ、後者については明確に拒否する。この書き分けができないと、対応は永久に進みません。

二、暴力がなければ犯罪でないと考えてしまう

威力業務妨害は、暴力を伴わなくても成立しうるものです。静かな口調であっても、長時間にわたって業務を止め続ける行為は問題になります。

三、一回だけなら仕方ないと考えてしまう

たしかに一回では判断が難しい類型が多いのですが、だからこそ一回目から記録を残す必要があります。三件並んで初めて全体像が見えます。

四、従業員個人への発言を軽く見てしまう

「お前の顔は覚えた」といった発言は、従業員個人に向けられた害悪の告知として問題になりえます。会社への苦情とは性質が異なり、被害者も従業員本人になります。この切り分けを意識してください。

罪名から逆算した記録の取り方

罪名ごとに、立証の鍵になる要素が違います。記録の様式を作る際、この観点を反映させておくと、後の判断が速くなります。

罪名 記録で押さえるべき要素
威力業務妨害 対応時間、回数、業務への具体的影響、対応した人数
強要 求められた行為の内容、拒否したこと、それでも求められたこと
恐喝 要求された金額・物、それに伴う告知の文言
脅迫 告知の文言そのもの、誰に向けられたか
不退去 退去を求めた時刻、求めた人、応じなかった時間
名誉毀損 第三者の有無、発言の内容、投稿の場合はURLと日時
暴行・傷害 行為の態様、受診の有無、診断書

この表を対応記録の様式に組み込んでおくと、現場が「何を書けばよいか」で迷わなくなります。すべてを毎回書く必要はなく、該当する項目だけを埋める形で足ります。

罪名の判断に迷ったときの相談先

誰に相談するか

相談先 向いている場面
所轄警察署の担当課 継続している事案。事前相談として
警察相談専用窓口 緊急ではないが、どうすべきか分からない段階
弁護士 交渉・訴訟まで視野に入る場合
行政書士 書面の作成、記録の整理、社内体制の整備
業界団体 同業他社での事例を知りたい場合

相談前に整理しておくこと

  1. 起きた行為を時系列で並べる(日付、行為、対応者)
  2. 相手の発言を、要約せずそのまま書き出す
  3. 業務への影響を数値で示す(対応時間、対応人数、影響件数)
  4. 従業員の状態を記載する
  5. これまでの対応(口頭、書面、通報)を列挙する

この五点がそろっていれば、どの相談先でも話が早くなります。逆に、そろっていない状態で相談すると、まず整理から始めることになります。相談の前に、記録を並べてみてください。

まとめ:罪名が特定できたら次にすること

罪名の見当がついたら、次は手続の段階です。告訴状の作成に進むのか、まず書面で警告するのか、その場で通報する体制を整えるのかによって、やるべきことが変わります。

一方、罪名が微妙だと感じた場合は、記録を厚くすることが最優先です。カスハラの多くの罪名は、一回の出来事ではなく積み重ねによって成立します。今の時点で決め手を欠いていても、記録が三件並べば判断が変わることは珍しくありません。

この記事を読み終えたら

  • 罪名の見当がついた → 告訴の手順と告訴状の書き方へ
  • 今まさに困っている → 警察を呼ぶ基準へ
  • 記録が足りない → 証拠の残し方へ

行政書士に依頼できること・できないこと

当事務所では、カスタマーハラスメントへの対応について、次の範囲でご支援しています。

  • 対応できること:警告書・内容証明・出入り禁止通知書・告訴状などの書類作成、社内規程および対応マニュアルの作成、従業員向け研修の実施
  • 対応できないこと:相手方との交渉の代理、示談、訴訟の代理(いずれも弁護士の業務となります)

案件の性質によっては、当初から弁護士をご紹介いたします。まずは現在の状況をお聞かせください。ご相談は無料です。

▶ LINEで無料相談する