警察を呼ぶ基準5つ|カスハラで民事不介入と言われない通報の伝え方
⚠ 通報をためらっている間に、従業員が危険にさらされます。手遅れになる前に、今すぐ無料でSOSをお送りください。
この記事では、その場で警察を呼ぶかどうかの判断と、通報後の流れを解説します。事後に告訴する手順は、別記事で扱っています。
この記事でわかること
「警察沙汰にはしたくない」。この発想が、現場を最も苦しめています。
通報をためらう理由は、たいてい三つです。大ごとにしたくない。呼んでも動いてくれないと思っている。自分の判断で呼んでいいのか分からない。このうち三つ目は、会社が解決すべき問題です。
この記事では、呼ぶべき状況の基準、通報時の伝え方、そして「民事不介入」と言われた場合の対処を整理します。
その場で110番すべき五つの状況
迷ったら呼んでください。これが原則です。呼んだこと自体が責められる場面は、実務上ほとんどありません。
一、身体への危害、またはその恐れがある
殴られた、物を投げつけられた、胸ぐらをつかまれた。これらは当然として、「危害を加えられそうだ」という段階でも通報してよい場面です。実際に手が出てからでは遅くなります。
二、退去を求めたのに帰らない
明確に「お引き取りください」と伝えたにもかかわらず退去しない場合です。この段階に至れば、法的な評価が変わりうる状況になっています。
三、他の客や第三者に危険が及んでいる
店内で大声を上げ続けている、他の客に絡んでいる、通路を塞いでいる。自社の従業員だけの問題ではなくなった時点で、判断は早めるべきです。
四、業務が現に止まっている
電話窓口が塞がれている、レジが動かない、他の対応ができない。営業に実害が出ている状況は、通報の理由になります。
五、従業員が対応不能な状態になっている
声が出ない、震えている、その場から動けない。この状態に至ったら、他の従業員が代わりに判断してください。本人に判断させてはいけません。
「民事不介入」と言われる理由
通報しても「民事の問題ですので」と言われた経験をお持ちの方は少なくないと思います。ここには構造的な理由があります。
何が民事と見られているのか
警察は、犯罪の疑いがあるかどうかで動きます。ところが、カスハラの多くは、背景に返金や契約のトラブルを抱えています。この背景が前面に出ると、「当事者間の民事の問題」として整理されてしまいます。
伝え方を変えるだけで対応が変わる
重要なのは、「何を求められているか」ではなく「どんな行為が行われているか」を伝えることです。
伝え方の比較
- 動きにくい ── 「返金のことでお客様ともめています」
- 動きやすい ── 「退去をお願いしましたが、応じてもらえません」
- 動きにくい ── 「クレーム対応で困っています」
- 動きやすい ── 「大声を出されていて、他のお客様の対応ができません」
内容は同じ場面でも、前者は民事の争い、後者は現に起きている事態の報告です。この違いを現場に共有しておいてください。
それでも動いてもらえなかった場合
通報したが対応されなかったという事実も、記録に残してください。通報時刻、伝えた内容、回答の内容。これが積み重なると、後の相談の場面で状況が変わることがあります。
通報時の伝え方
最初の30秒で伝える三点
- 場所 ── 店舗名、住所。まずこれを伝えます。
- 今起きている行為 ── 「退去に応じない」「大声を出している」など、現在進行形で。
- 危険の有無 ── 身体への危害があるか、そのおそれがあるか。
要望や経緯は後回しで構いません。まず、どこで、何が起きているかです。
罪名を言えると対応が変わる
「威力業務妨害にあたると考えています」「退去を求めましたが応じないため、不退去にあたると思われます」。このように伝えられると、話は具体的になります。
罪名を正確に言い当てる必要はありません。重要なのは、こちらが「これは犯罪の可能性がある事態だと認識している」という姿勢を示すことです。
読み上げ用の通報テンプレート
○○区○○○丁目○番○号、株式会社○○の○○店です。
現在、来店中のお客様が、退去をお願いしても応じていただけません。
午後○時○分から約○分間、店内で大声を出されており、他のお客様の対応ができない状態です。
退去のお願いは、午後○時○分に一度、○時○分に再度お伝えしています。
身体的な危害は、今のところありません。(/今、物を投げられました。)
現場の責任者は○○(氏名)です。従業員○名が対応しています。
お願いします。
この形を紙に印刷し、電話機のそばとレジ周りに置いてください。実際の場面で文章を組み立てるのは困難です。読み上げられる状態にしておくことが、そのまま対応の質になります。
通報の記録を残す
- 通報した時刻
- 受理番号(伝えられた場合)
- 臨場した警察官の所属と人数
- 現場での対応内容
- 退去した時刻
臨場後に警察がやること・やらないこと
多くは口頭での指導と退去の促し
臨場した警察官が行うのは、多くの場合、当事者双方からの事情の聴取と、退去の促しです。これだけでも、その場は収まります。第三者が入ることで冷静になる相手は少なくありません。
その場で身柄を拘束するケースは限られる
現行犯性が明確でない限り、その場での逮捕は例外的です。「呼んだのに何もしてくれなかった」と感じる場面の多くは、この点に起因します。
ただし、警察が臨場したという事実自体が記録に残り、次に同じことが起きたときの前提になります。一度で結果が出なくても、無駄ではありません。
被害届を勧められた場合
その場で出すか、持ち帰って検討するかを選べます。書類の作成に時間がかかるため、営業中であれば持ち帰りを選ぶのが現実的です。ただし、後日改めて出向く必要があります。
相手の身元確認
警察官が相手の身元を確認した場合でも、その情報が事業者に開示されるとは限りません。相手が誰かを把握したい場合は、自社の記録(会員情報、防犯カメラ、取引履歴)から特定を進めることになります。
動いてもらえなかった後にやること
一、その日のうちに記録する
何が起きたか、何を伝えたか、どう回答されたか。臨場があった場合はその内容も含めて記録してください。
二、書面で警告する
現場対応で止まらないのであれば、次は書面です。警察が臨場したという事実を書面に記載できると、相手に対する圧力は明らかに強まります。
三、告訴に切り替える
反復性が立証できる段階になったら、刑事手続を検討します。通報の記録は、その際の重要な資料になります。
四、110番ではなく所轄への相談として持ち込む
緊急通報とは別に、所轄の担当部署に相談として持ち込むルートがあります。継続的な事案については、こちらのほうが話が通りやすい場合があります。
所轄警察署と事前に接点を作っておく
これは、中小事業者ほど使っていない手です。
事前相談の実務
トラブルが起きてから初めて接触するより、事前に状況を伝えておくほうが、いざというときの理解が早くなります。同一人物による反復が予想される場合は、特に有効です。
- 所轄署の担当部署に、相談として来訪の予約を取る
- これまでの経緯を時系列でまとめた資料を持参する
- 「今後、通報する可能性がある」ことを伝えておく
- 担当者の氏名と連絡先を控えておく
この一手間により、通報時に「以前ご相談した件です」と伝えられるようになります。ゼロから説明する必要がなくなるだけでも、対応の速度が変わります。
業界団体・商店会経由
地域の防犯協会や商店会が、警察との接点を持っている場合があります。同一人物が複数の店舗で問題を起こしているケースでは、こうした横のつながりが情報の共有に役立ちます。
従業員が通報をためらう構造をどう解くか
この項目が、本記事で最も重要です。基準を作っても、現場が呼べなければ意味がありません。
ためらいの正体
- 自分の判断で呼んでよいのか分からない
- 呼んだ後に「大げさだ」と言われるのが怖い
- 過去に呼んで、上司から否定的な反応をされた経験がある
- 呼んだ後の対応(説明、書類)を自分がやることになると思っている
いずれも、法律の問題ではなく組織の問題です。そして、いずれも会社側の設計で解決できます。
権限をあらかじめ与えておく
「この状況では、上長の判断を待たずに通報してよい」という条件を明文化してください。前掲の五つの状況を、そのまま社内基準として使えます。
そして、最も重要なのが次の一文です。「通報した判断について、事後に責任を問わない」。これを明記し、経営層の名前で周知してください。これがないと、現場は呼びません。
呼んだ従業員を守る
通報後の対応――警察への説明、書類の作成、上への報告――は、通報した従業員ではなく、責任者が引き取ってください。「呼んだら自分の仕事が増える」という状態では、誰も呼びません。
義務化との関係
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。従業員が危険な状況にあるのに、会社が判断基準を示していなかったという状態は、会社側の問題として評価されうるものです。
通報基準を作ることは、従業員を守るためであると同時に、会社が義務を果たしていることの証明でもあります。
通報以外に警察を活用する方法
110番だけが警察との接点ではありません。実務では、次の方法のほうが効果的な場面があります。
一、所轄署への相談
緊急性のない継続的な事案については、所轄署の担当部署に相談として持ち込むほうが、話が通りやすい場合があります。時間を取って経緯を説明でき、資料も提出できます。
この相談自体が記録として残るため、その後に通報した際の前提にもなります。「以前ご相談した件です」と言えるかどうかで、対応の速度が変わります。
二、警察相談専用窓口
緊急ではないが警察に相談したい、という場合の窓口が設けられています。何をどこに相談すべきか分からない段階では、まずここに問い合わせるという方法があります。
三、パトロールの依頼
特定の時間帯に問題が起きやすい場合、その時間帯の巡回を依頼できる場合があります。相手にとっては、警察車両が定期的に通ること自体が抑止になります。
四、防犯設備についての助言
防犯カメラの設置位置、非常通報装置の導入など、設備面での助言を受けられる場合があります。カスハラ対策として設備投資を検討している場合、事前に相談すると無駄が減ります。
通報後の社内対応
警察を呼んだ後にやるべきことが、意外に整理されていません。
当日中にやること
- 対応記録を作成する(通報時刻、伝えた内容、臨場の有無、警察官の所属、退去時刻)
- 防犯カメラ映像の該当区間を切り出して保存する
- 対応した従業員から、それぞれ個別に記録を書いてもらう
- 本部・経営層へ報告する
二つ目を軽視しないでください。多くの機種で、映像は一定期間後に上書きされます。「あの日の映像を見たい」と思い立ったときには、すでに残っていないという事態が繰り返されています。
翌日以降にやること
- 対応した従業員の状態を確認する。必要に応じて業務を調整する
- 再来訪に備えた対応フローを、現場に周知する
- 書面での警告、または遮断を検討する
- 同一人物による過去の記録を集約し、時系列で整理する
従業員へのフォロー
警察を呼ぶような事態に直面した従業員は、その後しばらく緊張が続きます。「よく対応した」と明確に伝えてください。そして、その日の判断を事後に評価しないでください。
ここでの対応が、次に同じ状況が起きたときに通報できるかどうかを決めます。一度でも否定的な反応をすると、以後、現場は呼ばなくなります。
現場に配る通報カードの作り方
この記事の内容を、実際に使える形にする方法です。名刺サイズか、レジ横に置けるカードにまとめます。
表面:呼ぶ基準
□ 身体への危害、またはその恐れがある
□ 「お帰りください」と伝えても帰らない
□ 他のお客様に危険が及んでいる
□ 業務が止まっている
□ 対応している人が動けなくなっている
※ 呼んだ判断について、後から責任を問うことはありません。
裏面:伝え方
①場所 「○○区○○○丁目○番○号、株式会社○○の○○店です」
②状況 「お客様が退去に応じません」「大声を出されています」
③危険 「今のところ危害はありません」/「物を投げられました」
【伝えたあと】
・退去をお願いした時刻を伝える
・現場責任者の名前を伝える
【記録すること】
通報時刻/受理番号/警察官の所属/退去時刻
運用のポイント
- 全従業員に配布する。責任者だけに配ると意味がありません。
- 新人研修の初日に渡す。判断に迷うのは経験の浅い従業員です。
- 半年ごとに、実際に使われたかを確認する。使われていなければ、基準か周知に問題があります。
- 最後の一行(責任を問わない)を必ず入れる。これがないと使われません。
通報をめぐる誤解
「客商売なのに警察を呼ぶなんて」
通報は、他の顧客を守る行為でもあります。大声を上げ続ける人物を放置すれば、他の客が不快な思いをし、場合によっては危険にさらされます。「客商売だから呼べない」ではなく、「客商売だからこそ呼ぶ」と整理してください。
「呼んだら店の評判が下がる」
実際には、逆の場合が多いといえます。他の客は状況を見ています。適切に対応した店舗のほうが、印象は良くなります。何もせず放置している状態のほうが、「この店は何も対応しない」という評価につながります。
「大ごとにしたくない」
この言葉が使われるとき、実際に守られているのは会社の体面であって、従業員ではありません。すでに従業員が理不尽な扱いを受けている時点で、事態は十分に大ごとです。通報するかどうかは、大ごとにするかどうかの選択ではなく、誰を守るかの選択です。
「相手が逆上して危険になる」
そのおそれがある場合こそ、通報の理由になります。従業員だけで対応を続けるほうが危険です。なお、通報を告げるかどうかは状況によります。危険が高いと判断される場合は、告げずに通報してください。
「警察は民事に介入しないから無駄」
民事不介入は、犯罪の疑いがない場合の話です。前述のとおり、伝え方を変えるだけで対応が変わる場面が多くあります。「無駄だ」と決めつける前に、行為の態様を伝える形で試してみてください。
業種別の注意点
小売・飲食
他の客がいる状況での通報になるため、周囲への影響を懸念して判断が遅れがちです。しかし、他の客に危険が及ぶ可能性を考えれば、早めの通報のほうが適切です。臨場した警察官への説明は、可能であればバックヤードで行ってください。
医療・介護・福祉
利用者やその家族が相手になるため、通報への心理的な抵抗が特に強い分野です。一方で、身体的な危害が生じやすい分野でもあります。「どの状況なら呼ぶか」を事前に決めておくことが、他の業種以上に重要です。行政の担当課との連携も併せて設計してください。
不動産管理・賃貸
入居者が相手の場合、住居内での出来事は対応が難しくなります。共用部での行為、管理事務所での行為については、通常どおり対応できます。オーナーとの情報共有を先に済ませておいてください。
コールセンター・電話窓口
対面ではないため通報の判断がつきにくい分野です。この場合、通報よりも、通話の打ち切り基準を明確にするほうが実効的です。「○分を超えたら終了を告げる」「三回告げても終わらなければ切る」といった基準を定め、その判断を現場に委ねないでください。
呼ぶかどうか迷ったときの三つの問い
現場で判断に迷ったとき、次の三つを自問してください。いずれか一つでも「はい」であれば、呼んでよい場面です。
- このまま自分たちだけで対応して、状況が良くなる見込みがあるか。ないと感じるなら呼ぶ。
- 今、誰かが危険な状態にあるか。従業員でも、他の客でも。
- すでに「帰ってください」と伝えたか。伝えたのに帰らないなら、それは現場対応の限界を超えている。
この三つを覚えておくだけで、判断は速くなります。細かい基準を暗記する必要はありません。
通報しないと決めた場合にやること
呼ばないという判断もあります。ただし、その場合も何もしないのではなく、次の三つを行ってください。
一、対応時間を区切る
「あと10分で終了とさせていただきます」と明確に伝え、時間が来たら終了する。事前に社内で打ち切り基準を決めておけば、現場が交渉する必要はありません。
二、対応者を交代する
同じ従業員が対応を続けると、消耗します。時間で区切って交代してください。相手にとっても、対応者が変わることは一区切りになります。
三、記録を残す
呼ばなかったこと、その理由、その日の経過。これを残しておくと、次に同じことが起きたときの判断材料になります。呼ばなかった判断が積み重なると、いつまでも状況が変わりません。記録があれば、それが可視化されます。
通報記録を次につなげる
一回の通報で解決しないことは珍しくありません。重要なのは、その記録を蓄積し、次の段階につなげることです。
記録すべき五項目
| 項目 | 記録する理由 |
|---|---|
| 通報日時 | 反復性の立証に使う |
| 伝えた内容 | 次回の伝え方の改善につながる |
| 臨場の有無と所属 | 継続案件として認識してもらう手がかり |
| 現場での対応内容 | 退去指導があったか、注意されたか |
| その後の相手の行動 | 抑止効果があったかどうかの判定 |
三回目からは扱いが変わる
同一人物について複数回の通報記録があると、継続的な事案として認識されやすくなります。一回目で動かなかったからといって、通報自体を諦めないでください。積み重ねが結果を変えます。
書面・告訴への接続
通報の記録は、警告書に「○月○日には警察官の臨場を要しました」と記載する根拠になり、告訴状では反復性を示す資料になります。その場の対応で終わらせず、必ず記録として残してください。
警察が来る前の三分間
通報してから臨場までには時間があります。この間の行動が、その後の展開を左右します。
一、対応者を減らす
複数人で囲むと、相手を刺激します。対応は一名にし、他の従業員は少し離れた位置で見守る形にしてください。他の客の避難誘導が必要な場合は、別の従業員が担当します。
二、記録を開始する
可能であれば録音を開始してください。難しい場合も、時刻と発言を後で書けるよう、メモを取れる従業員を一名確保します。
三、退去を改めて求める
「お引き取りください」と、改めて明確に伝えてください。臨場した警察官に対して、「退去を求めたが応じない」と説明できる状態を作っておきます。伝えた時刻も記録します。
四、出入口を塞がない
相手が帰ろうとしたときに出られない状況を作ると、別の問題が生じます。退去を求めている以上、退去の経路は確保しておいてください。
五、物理的な接触をしない
腕をつかむ、押し出すといった行為は避けてください。こちらが加害者と評価される可能性があります。言葉で退去を求め、応じなければ警察の到着を待つ。この原則を徹底してください。
警察対応を体制に組み込む
通報の判断を個人任せにせず、体制として設計してください。整えるのは次の四点です。
一、基準を文書化する
本記事の五つの状況を、自社の実情に合わせて調整し、文書にしてください。口頭で伝えただけでは、いざというときに思い出せません。
二、権限を明記する
「該当する場合、上長の判断を待たずに通報してよい」と明記します。そして、「その判断について事後に責任を問わない」ことを、経営層の名前で示してください。
三、通報後の役割分担を決める
警察への説明、記録の作成、本部への報告。これらを誰が担うかを事前に決めます。通報した従業員に一切の後処理をさせない設計にしてください。
四、訓練する
読み上げ用のテンプレートを使い、実際に声に出して読む練習を一度でもしておくと、本番での対応が違います。避難訓練と同じ考え方です。年に一度、五分で構いません。
これらは、2026年10月1日から義務となったカスハラ防止措置の一部としても位置づけられます。基準を示さないまま現場に対応を委ねている状態は、望ましいものではありません。
現場でよく聞かれる質問
呼んだ後、相手が余計に怒りませんか
その場では態度が硬化することがあります。ただし、警察官が臨場した後も同じ行動を続ける人は多くありません。むしろ、通報しないまま対応を続けるほうが、相手の行動はエスカレートします。
匿名で通報できますか
事業者として通報する以上、店舗名と場所を伝える必要があります。ただし、対応した従業員個人の氏名を相手に知られることはありません。警察への説明は責任者が行ってください。
相手が「警察を呼ぶなら訴える」と言っています
適法な通報について、責任を問われることは通常ありません。むしろ、この発言自体が記録すべき内容です。通報を思いとどまらせようとする言動は、状況の異常性を示す事情になります。
従業員が個人で110番してもよいですか
緊急の場面では、気づいた従業員が直接通報して構いません。むしろ、責任者を探している間に事態が悪化するほうが問題です。この点を明文で認めておいてください。
過去に呼んで何もしてもらえませんでした
伝え方を変えるだけで対応が変わることがあります。「困っている」ではなく「退去を求めたが応じない」と、行為の態様を伝えてください。それでも動かない場合は、110番ではなく所轄署への相談として持ち込むルートを試してください。
通報基準を作るときの落とし穴
基準が細かすぎる
状況を網羅しようとすると、現場が参照できない分量になります。五つ程度に絞り、それ以外は「迷ったら呼ぶ」で処理してください。
「原則として上長に確認」と書いてしまう
この一文があると、現場は必ず確認しようとします。そして、上長が不在の時間帯に事態が起きます。危険度の高い状況については、確認不要と明記してください。
責任の所在を書いていない
最も多い抜けがこれです。「呼んだ判断について事後に責任を問わない」という一文がなければ、基準は使われません。経営層の名前で明記してください。
作っただけで周知していない
基準を作った企業は増えていますが、現場に届いていないケースが目立ちます。全従業員に配布し、新人には初日に渡してください。判断に迷うのは、経験の浅い従業員です。
一度も見直していない
半年に一度、実際に通報があったかを確認してください。ゼロ件であれば、問題が起きていないのではなく、基準が使われていない可能性があります。
まとめ:通報判断フロー
| 状況 | 判断 | 対応者 |
|---|---|---|
| 身体への危害・その恐れ | 即通報 | 気づいた従業員が直接 |
| 退去要求に応じない | 通報 | 責任者。不在なら現場判断 |
| 他の客に危険が及んでいる | 即通報 | 気づいた従業員が直接 |
| 業務が止まっている | 責任者判断 | 責任者 |
| 従業員が対応不能 | 即通報 | 周囲の従業員が代わって |
この表を一枚にして、現場の各所に置いてください。判断に迷う時間が、そのまま危険な時間になります。
なお、通報した後に事態が収束しない場合、次は書面か刑事手続の段階です。手段の選び方については、あわせてご覧ください。
行政書士に依頼できること・できないこと
当事務所では、カスタマーハラスメントへの対応について、次の範囲でご支援しています。
- 対応できること:警告書・内容証明・出入り禁止通知書・告訴状などの書類作成、社内規程および対応マニュアルの作成、従業員向け研修の実施
- 対応できないこと:相手方との交渉の代理、示談、訴訟の代理(いずれも弁護士の業務となります)
案件の性質によっては、当初から弁護士をご紹介いたします。まずは現在の状況をお聞かせください。ご相談は無料です。


