カスハラの刑事告訴の手順|告訴状の書き方と受理される5条件
⚠ 告訴状は「出せば動く」ものではありません。受理されずに戻される前に、今すぐ無料でSOSをお送りください。
この記事では、告訴状の作成と提出の手順を解説します。その行為がどの犯罪にあたるかの判定は、別記事で扱っています。
この記事でわかること
警告書を出しても止まらない。遮断を通知しても来る。この段階に至ると、残る選択肢は刑事手続です。
ただし、告訴は「出せば動く」ものではありません。実務上、最初の壁は受理されるかどうかにあります。持参したその日に受け取ってもらえず、持ち帰りになるケースは珍しくありません。この記事では、受理までに何が必要かを中心に整理します。
被害届と告訴状はどう違うか
法的な位置づけの違い
| 被害届 | 告訴状 | |
|---|---|---|
| 性質 | 被害があったことの申告 | 処罰を求める意思表示 |
| 受理のハードル | 比較的低い | 高い |
| 捜査機関の対応 | 裁量の幅が広い | 手続上の対応が定まっている |
| 向いている場面 | まず記録を残したい | 処罰まで求める意思が固まっている |
告訴は、処罰を求めるという意思を明確にするものです。そのぶん受理の要件が厳しくなりますが、受理された後は手続が進みやすくなります。
法人が出す場合の実務
会社の業務が妨げられたという類型では、被害者は法人です。この場合、告訴人は法人となり、代表者が手続を行います。実際の作成や提出は担当者が行うことになりますが、名義は法人です。
登記事項証明書、代表者の資格を示す資料などが必要になりますので、事前に用意しておいてください。
従業員個人が被害者の場合
ここが実務上の落とし穴です。脅迫、侮辱、暴行、傷害といった類型では、被害者は従業員本人になります。この場合、会社が代わって告訴することはできません。
会社としてできるのは、本人が手続を進める場合の支援です。費用の負担、就業時間中の対応の許可、書類作成の手配など、実質的な支援は可能です。逆に、本人が望まない場合に会社が押し進めることはできません。
整理
- 会社が主体になれる ── 威力業務妨害、建造物侵入、不退去、信用毀損など
- 本人の意思が必要 ── 脅迫、侮辱、暴行、傷害など
- 同じ場面で両方が問題になることも多い。切り分けたうえで、会社が動ける部分から着手する
告訴状が受理されないパターン
受理されない理由を先に知っておくと、自分の状況を診断できます。
一、証拠が足りない
最も多い理由です。「悪質な客がいます」という訴えだけでは動けません。日時、行為、結果が特定された資料が必要です。録音、対応記録、防犯カメラ映像、通話履歴。これらのうち複数がそろっている状態が望ましいといえます。
二、罪名が特定されていない
どの罪について処罰を求めるのかが示されていないと、受け取る側で整理する作業が発生し、手続が滞ります。事前に罪名の見当をつけておくことが、受理までの時間を大きく縮めます。
三、被害の内容が特定されていない
「何度も嫌がらせを受けた」という記載では、何を捜査すればよいのかが分かりません。少なくとも、いつ、どこで、誰に対して、何が行われたかを一件ずつ特定してください。
四、民事の紛争と見られている
背景に返金や契約のトラブルがあると、「当事者間の民事の問題」と整理されやすくなります。対策は、要求の内容と行為の態様を書き分けることです。返金をめぐる争いがあることは事実として書きつつ、告訴の対象はあくまで行為の態様である、という構成にします。
五、時期を逸している
名誉毀損罪や侮辱罪は、告訴がなければ起訴できない罪であり、告訴には期間の制限があります。また、罪名ごとに公訴時効の期間が定められています。発生から時間が経っている場合は、まずこの点を確認してください。
告訴状の記載事項と書き方
表題と宛先
表題は「告訴状」とします。宛先は、所轄の警察署長または検察庁の長です。
告訴人
法人の場合、名称、所在地、代表者の氏名を記載します。あわせて、担当者の氏名と連絡先を記載しておくと、その後のやりとりが円滑になります。従業員個人が告訴人となる場合は、本人の氏名と住所です。
被告訴人
氏名と住所が判明している場合は、そのまま記載します。判明していない場合の書き方は次のとおりです。
- 会員番号や取引情報しか分からない ── 「氏名不詳(当社会員番号○○○○の登録名義人)」等と記載し、判明している情報を列挙する
- 特徴しか分からない ── 「氏名不詳(別紙防犯カメラ画像の人物)」等とし、資料を添付する
- まったく不明 ── 「被告訴人 氏名不詳」とし、特定に資する情報を告訴事実の中に記載する
被告訴人が特定できていないと受理が難しくなる傾向がありますので、可能な範囲で情報を集めてから提出してください。
告訴の趣旨
どの罪名で処罰を求めるのかを明記します。「被告訴人の下記所為は威力業務妨害罪に該当すると思料されるので、厳重に処罰されたく告訴する」といった記載が一般的です。複数の罪名を挙げることも可能です。
告訴事実(最重要)
ここが告訴状の中核です。時系列に沿って、5W1Hで記載します。評価語は使わず、事実だけを書いてください。
被告訴人は、2026年7月14日午後5時12分頃から同日午後6時41分頃までの間、東京都○○区○○○丁目○番○号所在の告訴人営業所に対し、電話をかけ、応対した告訴人従業員○○○○に対し、「責任者を出せ」「土下座しろ」「会社の前で待ってるからな」などと申し向け、同従業員が三回にわたり通話の終了を申し出たにもかかわらずこれに応じず、合計89分間にわたり同従業員を電話対応に従事させた。
これにより、告訴人は、同時間帯における他の顧客からの電話に応対することができず、その業務を妨害された。
なお、被告訴人による同様の行為は、同月2日(通話時間62分)および同月9日(通話時間71分)にも行われている。
この記載例で注目していただきたいのは、三点です。発言をかぎ括弧でそのまま引用していること。業務にどのような影響が生じたかを明示していること。そして、同種の行為が反復していることを末尾に添えていること。
証拠方法
添付する資料を、番号を振って列挙します。詳細は次項で述べます。
作成年月日と押印
作成日を記載し、告訴人が記名押印します。法人の場合は代表者印です。
添付する証拠の整え方
証拠目録の作り方
資料をそのまま束にして提出しても読まれません。番号、標目、何を示す資料なのかを一覧にしてください。
| 番号 | 標目 | 立証の趣旨 |
|---|---|---|
| 甲1 | 対応記録(2026年7月14日分) | 当日の経過および通話時間 |
| 甲2 | 通話録音データ及び反訳書 | 被告訴人の発言内容 |
| 甲3 | 通話履歴一覧 | 架電の回数および時刻 |
| 甲4 | 対応記録(同月2日・9日分) | 同種行為の反復 |
| 甲5 | 従業員の陳述書 | 対応の経過および心身への影響 |
録音の扱い
録音データそのものだけを提出しても、内容を確認するのに時間がかかります。要点を書面にまとめた資料を添えると、読まれる可能性が高くなります。全文を起こす必要はありませんが、問題となる発言の前後は正確に記載してください。
原本か写しか
原本は手元に残し、提出は写しとするのが原則です。提出したものの控えは必ず取ってください。後日、追加の資料を求められた際に、何を出しているかが分からなくなります。
提出先と受理までの流れ
どこに提出するか
行為が行われた場所を管轄する警察署が基本です。検察庁に直接提出することも可能ですが、実務上は警察署からというケースが多くなります。
事前相談という実務
いきなり持ち込むのではなく、事前に電話で相談の予約を取ることをお勧めします。担当部署に事情を伝えたうえで日時を調整すると、当日の対応が明らかに違います。
また、この事前相談の段階で、資料の不足を指摘されることがあります。その指摘に沿って補充してから提出したほうが、結果的に早く進みます。
提出時に聞かれること
- 被害が現在も継続しているか
- 示談の意思があるか
- 処罰を求める意思が固いか
- 相手との間に契約上の争いがあるか
- これまでにどのような対応を取ってきたか
これらは事前に社内で整理しておいてください。特に二つ目と三つ目について曖昧な回答をすると、「まだ話し合いの段階ではないか」と受け取られます。
受理までの期間
その場で受理されるとは限りません。持ち帰って検討され、後日連絡が来るという流れが一般的です。数週間を要することもあります。この間に相手の行為が続く場合は、その経過も記録し、追加の資料として提出してください。
受理された後、会社側に生じる対応
事情聴取
担当者および被害を受けた従業員が呼ばれます。一度で終わるとは限らず、複数回に及ぶこともあります。就業時間中に対応することになるため、業務への影響をあらかじめ見込んでおいてください。
従業員への配慮
最も注意を要する点です。被害を受けた従業員にとって、事情聴取は当時の状況を繰り返し思い出す場になります。心理的な負担は小さくありません。
告訴に進む前に、本人に手続の流れを説明し、同意を得てください。「会社が守ってくれる」と感じられる進め方であればよいのですが、「会社の都合で巻き込まれた」と感じさせると、かえって関係が悪化します。
期待値の調整
受理されても、起訴に至らない場合があります。この点は、社内で事前に共有しておいてください。
ただし、起訴されなかったとしても、捜査機関が動いたという事実自体に大きな抑止効果があります。実務上、この段階で行為が止まるケースは相当数あります。刑事罰を得ることだけを目的とすると期待外れになりますが、行為を止めることを目的とするなら、十分に機能する手段です。
刑事と並行して進めるべきこと
刑事手続の結果を待つ必要はありません。むしろ、並行して進めるべきことがあります。
- 遮断 ── 出入り禁止や取引停止の通知は、刑事手続と無関係に行えます
- 民事 ── 損害賠償の請求も並行可能です
- 社内 ── 被害を受けた従業員の業務調整、必要に応じた受診の支援
- ネット ── 投稿がある場合、削除申請や特定の手続は時間の経過が不利に働くため先行させる
刑事だけに賭ける設計は避けてください。受理までに時間がかかり、その間も状況は動きます。
費用と期間の目安
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 告訴状の作成(専門家に依頼) | 数万円〜十数万円程度 |
| 資料の整理・目録作成 | 作成に含まれる場合が多い |
| 作成から提出まで | 資料がそろっていれば1〜2週間 |
| 提出から受理まで | 即日〜数週間 |
期間を左右する最大の要素は、資料がそろっているかどうかです。記録が整理されていれば作成は短期間で済み、そうでなければまず記録の整理から始まります。
告訴を検討する前に確認したい三つのこと
刑事手続は強力ですが、万能ではありません。着手する前に、次の三点を社内で確認してください。
一、目的は処罰か、停止か
相手を処罰することが目的であれば、起訴に至らなかった場合に「無駄だった」という評価になります。一方、行為を止めることが目的であれば、捜査機関が動いた時点で目的の相当部分は達成されます。
実務上、後者を目的とするケースが圧倒的多数です。この点を社内で共有しておかないと、途中で方針が揺らぎます。
二、従業員本人の意思
事情聴取に呼ばれるのは、被害を受けた従業員です。本人にとっては、当時の状況を繰り返し説明する場になります。会社の判断だけで進めると、本人が退職を選ぶという最悪の結果になりかねません。
告訴という選択肢があること、進めた場合に何が起きるか、進めない選択も可能であることを説明したうえで、本人の意向を確認してください。
三、並行して進める手段
告訴の受理までには時間がかかります。その間も相手の行為が続くのであれば、遮断を先に進めるべきです。刑事手続を選ぶことと、他の手段を止めることは同義ではありません。
証拠が足りないと言われたときの補い方
事前相談の段階で「これでは難しい」と言われることがあります。多くの場合、次のいずれかが不足しています。
反復性を示す資料がない
一件だけを持ち込むと、偶発的な出来事と評価されやすくなります。過去の対応記録を掘り起こし、同種の行為を時系列に並べてください。日報や通話履歴から拾える場合があります。
業務への影響が示されていない
威力業務妨害を主張する場合、業務がどう妨げられたかの記載が不可欠です。対応に要した従業員数と時間、その間に対応できなかった件数、閉店や中断の有無。これらを数値で示してください。
発言の記録が要約になっている
「暴言があった」では判断できません。録音がない場合でも、対応した従業員に、発言をできる限りそのまま書き起こしてもらってください。複数名が同席していた場合は、それぞれに個別に書いてもらいます。
被害者の特定が曖昧
会社が被害者なのか、従業員個人が被害者なのかが混在していると、整理を求められます。行為ごとに切り分けて記載してください。
時間を置いて再度提出する
一度断られても、その後の行為を含めて再度持ち込むことは可能です。実際、断られた後に相手の行為が続き、資料が増えたことで受理に至るケースがあります。断られた事実も記録に残しておいてください。
告訴以外の選択肢との比較
| 手段 | 止まるまでの速さ | 会社の負担 | 相手への圧力 |
|---|---|---|---|
| 書面での警告 | 速い(数日〜2週間) | 小 | 中 |
| 出入り禁止・取引停止 | 速い(即時〜2週間) | 小 | 中〜高 |
| 被害届 | 中(数日〜数週間) | 中 | 中〜高 |
| 刑事告訴 | 遅い(1か月〜) | 大 | 高 |
| 損害賠償請求 | 遅い(数か月〜) | 大 | 中 |
この表からわかるのは、告訴が「速さ」の面では最も遅い手段だということです。今まさに困っている状況を止めたいのであれば、まず遮断を先行させるほうが合理的です。告訴は、止めた後の責任追及、あるいは止まらない相手への最終手段として位置づけてください。
告訴状の作成でつまずきやすい箇所
評価語を書いてしまう
「執拗に」「悪質な」「常軌を逸した」といった表現は、書きたくなりますが避けてください。告訴状に必要なのは事実であり、評価は捜査機関が行います。評価語が多い告訴状は、かえって事実が薄く見えます。
記載の比較
- 避ける ── 「被告訴人は執拗かつ悪質な嫌がらせを繰り返した」
- 望ましい ── 「被告訴人は、同月2日、9日および14日の三回にわたり、いずれも60分を超える通話を行った」
一件に絞れない
複数の事案があると、すべてを書きたくなります。しかし、証拠が薄い事案を並べると、全体の説得力が落ちます。最も証拠が固い一件を主軸に据え、他は「同種行為の反復」として簡潔に添えるという構成が有効です。
背景の説明が長すぎる
なぜこうなったのかを丁寧に説明しようとすると、返金や契約の経緯が長くなります。すると、民事の紛争に見えてきます。背景は最小限にとどめ、行為の記載に分量を割いてください。
従業員の氏名の扱い
被害を受けた従業員の氏名は、告訴状に記載する必要があります。ただし、記載することについて本人の了解を得ておいてください。事後に「聞いていない」という事態になると、社内の信頼関係に影響します。
よくある質問
相手に告訴したことは伝わりますか
捜査の過程で被告訴人に接触があれば、当然に把握されます。告訴の事実そのものを、こちらから相手に通知する必要はありません。なお、警告書の段階で「法的措置を検討する」と予告している場合、その延長として受け止められることになります。
途中で取り下げることはできますか
告訴の取消しは可能です。ただし、名誉毀損罪や侮辱罪のように告訴がなければ起訴できない罪については、一度取り消すと、同じ事件について再度告訴することができなくなります。取り下げの判断は慎重に行ってください。
弁護士に依頼したほうがよいのではないですか
告訴状の作成自体は、行政書士でも承ることができます。相手方との交渉や示談が必要になる場合、また訴訟に発展する可能性がある場合は、弁護士の領域です。まず書面を整えて提出し、必要が生じた段階で弁護士に引き継ぐという進め方が、費用面では効率的です。
過去の分についてもまとめて告訴できますか
罪名ごとに公訴時効が定められており、経過したものは対象外になります。ただし、時効が完成している過去の行為であっても、現在の行為の悪質性を示す事情として記載する意味はあります。記録が残っているのであれば、整理して添えてください。
相手が謝罪してきました。取り下げるべきですか
判断は会社次第です。ただし、取り下げる場合は、再発した際に再度告訴する余地を残す形にしてください。また、謝罪の内容と、再発防止についての合意を書面で残しておくことをお勧めします。口頭での謝罪だけで取り下げると、同じことが繰り返された際に立場が弱くなります。
告訴状の全体構成(雛形)
実際の書面がどのような形になるか、全体の骨格を示します。分量はA4で2〜4枚程度が一般的です。
2026年○月○日
○○警察署長 殿
告訴人 東京都○○区○○○丁目○番○号
株式会社○○○○
代表取締役 ○○ ○○ ㊞
(担当 総務部 ○○ 電話○○-○○○○-○○○○)
被告訴人 東京都○○区○○○丁目○番○号
○○ ○○
第1 告訴の趣旨
被告訴人の下記所為は威力業務妨害罪(刑法234条)に該当すると思料されるので、被告訴人を厳重に処罰されたく、ここに告訴する。
第2 告訴事実
(時系列で、5W1Hにより記載)
第3 告訴に至る経緯
(簡潔に。長くしない)
第4 証拠方法
甲1 対応記録(2026年7月14日分)
甲2 通話録音データ及びその要旨
甲3 通話履歴一覧
甲4 対応記録(同月2日・9日分)
甲5 従業員○○の陳述書
第5 添付書類
1 商業登記事項証明書 1通
2 証拠方法記載の各書類 各1通
以上
「第3 告訴に至る経緯」は、簡潔にとどめてください。ここが長くなると、背景の民事的な争いが前面に出て、事件の性質が分かりにくくなります。三〜五行で足ります。
提出後の流れと、社内での進捗管理
進捗が見えない期間がある
提出後、しばらく連絡がない期間が生じます。これは通常のことです。この間に「どうなっているのか」と社内で不安が広がらないよう、あらかじめ見込みを共有しておいてください。
こちらから確認してよいか
担当者に状況を確認すること自体は問題ありません。ただし、頻繁に問い合わせても進行が早まるわけではありません。月に一度程度の確認にとどめ、その都度、確認した日と回答内容を記録してください。
相手の行為が続いた場合
提出後も行為が続くのであれば、その記録を追加で提出してください。継続していること自体が、悪質性を示す事情になります。また、この段階で遮断の措置を取っていない場合は、並行して進めることを検討してください。
結果の受け止め方
起訴に至らなかった場合でも、捜査機関が接触した事実は残ります。実務上、この段階で行為が止まるケースは相当数あります。社内には「行為が止まれば目的は達成」という整理を、着手前に共有しておいてください。
被害届から始めるという選択
告訴のハードルが高いと感じる場合、まず被害届から始めるという段階設計があります。実務上、この進め方を採るケースは少なくありません。
被害届の利点
- 受理のハードルが相対的に低い
- 提出までの準備が軽い
- 提出した事実が記録に残る
- 状況が悪化した場合、告訴に切り替えられる
被害届で止まるケース
被害届は処罰を求める意思表示ではないため、捜査が進まないまま終わることがあります。「出したのに何も起きなかった」という結果になりうる点は、社内で共有しておいてください。
切り替えの判断
被害届を出した後も行為が続くのであれば、告訴に切り替える段階です。その際、被害届を提出した事実と、その後も継続したという経過が、告訴事実の一部として使えます。段階を踏んだこと自体が資料になります。
従業員への説明の仕方
刑事手続に進む場合、被害を受けた従業員への説明が欠かせません。伝え方によって、本人の受け止めが大きく変わります。
伝えるべき四点
- 会社として、この行為を問題だと判断していること
- 手続に進んだ場合、本人に何が起きるか(事情聴取、資料の提出、期間)
- 進めない選択も可能であること
- どちらを選んでも、業務上の不利益はないこと
避けるべき伝え方
- 「会社としてはやるつもりだから」と決定事項として伝える
- 「あなたのためだから」と選択の余地がない形にする
- 手続の負担を伝えずに同意を取る
- 結果について過度な期待を持たせる
同意は書面で残す
口頭での同意だけだと、後になって認識の食い違いが生じます。説明した内容と、本人の意向を、簡単な書面で残しておいてください。本人を守るためでもあります。
作成を依頼する場合の準備
ご用意いただくもの
- 経緯を時系列でまとめた資料(日付、行為、対応者、対応時間)
- 録音データ、防犯カメラ映像などの有無と保管場所
- 通話履歴、対応記録などの原資料
- これまでに送付した書面の写し
- 被告訴人を特定できる情報(氏名、住所、会員番号など)
- 被害を受けた従業員の意向を確認した記録
作成までの流れ
- 資料の確認と、罪名の検討
- 告訴事実の構成(どの事案を主軸に据えるか)
- 証拠目録の作成
- 文案のご確認
- 所轄署への事前相談の調整
- 提出
期間と費用
資料がそろっていれば、着手から提出まで一〜二週間程度です。そろっていない場合、まず記録の整理から始まるため、期間は延びます。費用は事案の複雑さによりますが、書面作成として数万円から十数万円程度が目安になります。
なお、提出後に交渉や示談が必要になった場合、その段階からは弁護士の業務となります。必要に応じてご紹介いたします。
まとめ:提出前チェックリスト
- 被害者は会社か、従業員個人か。切り分けたか。
- 罪名の見当がついているか。
- 日時・行為・結果を特定した記録が、複数件そろっているか。
- 被告訴人を特定できる情報があるか。
- 証拠目録を作成したか。
- 従業員本人に説明し、同意を得たか。
- 事前相談の予約を取ったか。
このうち三つ目と六つ目が、実務上の分かれ目です。記録が足りない場合は、まず記録を整えることが近道になります。従業員の同意がないまま進めると、手続の途中で立ち行かなくなります。
行政書士に依頼できること・できないこと
当事務所では、カスタマーハラスメントへの対応について、次の範囲でご支援しています。
- 対応できること:警告書・内容証明・出入り禁止通知書・告訴状などの書類作成、社内規程および対応マニュアルの作成、従業員向け研修の実施
- 対応できないこと:相手方との交渉の代理、示談、訴訟の代理(いずれも弁護士の業務となります)
案件の性質によっては、当初から弁護士をご紹介いたします。まずは現在の状況をお聞かせください。ご相談は無料です。


